先生、あのね
不可思議/wonderboy

先生、あのね
アメンボ赤いなあいうえおっていうけど
僕は黒いアメンボしか知りません

先生、あのね
今日もお父さんはいろんな人を裁きました
テレビの前で、ビールを飲みながら、ニュースを見ていろんな人を裁くのです
大忙しです
今日は、大麻を吸っていた力士を裁きました
突然辞めてしまった総理大臣を裁きました
カビの生えていたお米を売っていた人を裁きました
ロシアと戦争をしている国を裁きました
巨人はお金で選手を集めていると言っていました
お父さんは正義の味方です

お父さんが僕になにか話しかけました
でも僕は何を言ってるかよくわからなかったのでシカトしました

お母さんは精神安定剤を飲んでいました

お姉ちゃんは他人の車にぶつけたのに塀にぶつかったと嘘をついていました

先生、あのね
僕は宇宙になりたい
宇宙を感じたいとか、宇宙のような音楽を聴きたいとか、宇宙のことを研究したいとかそういうんじゃなくて
宇宙そのものになりたいんだ
でもまだ家族には言っていません
だって恥ずかしいもの
そんなの無理だって言われるかもしれないもの
でも先生は夢はでっかく持ちなさいと言っていたからきっと応援してくれると思います
先生、宇宙になるにはどうしたらいいですか
何か資格をとったほうがいいですか
一回普通に就職して社会経験を積んだほうがいいですか
法律は勉強したほうがいいですか
そうですね、ビッグバンは覚えたほうがいいですね

先生、あのね
帰りの電車の中で座ってたら、僕の前にそれほどかわいくない女子高生が座りました
それほどかわいくなかったけれど
なぜか無性にその子のスカートの中が気になりはじめました
その女子高生のスカートの中にまっさらな真実があるという気がしてなりませんでした

僕はスカートの中を見ようと全神経を集中させました
最初は暗くてよくわからなかったのですが、僕はあきらめませんでした
先生がいつも「決してあきらめてはいけない」と言ってくれるのを思い出しました

すると光の差し込み加減も幸いして、なんだか白いものが
かすかではありますが、はっきりと、見えたのです

でもまだまだ真実にはほど遠いという印象を僕は受けたので
凝視をおこたりませんでした

いささかまわりの人の目が気になる気もしましたが、
先生がいつも「まわりの目なんか気にせず、一生懸命やれ」と言ってくれるのを思い出しました
僕は勇気が湧いてきました

すると、どうでしょう
スカートの奥に見えた白いものはなんだか扉の形をしているではありませんか
ドアノブの形まではっきりと見えます
さらに驚いたことには、扉の前で手をこまねいている者がいるのです
ウサギさんです!

まあなんと
童話の世界でしかその姿を知らなかった僕ですが
こんなところでお目にかかることができるなんて
やあ、ウサギさん、はじめまして

彼はにっこり微笑むと、おもむろに扉を開けました
すると、おそらくスカートの奥の真実と、こちらの世界では気圧がずいぶん違っていたのでしょう
僕は思いっきり女子高生のスカートの中の白い扉の中の世界(おそらくそれは真実だろうと僕は思います)に吸い込まれ、頭を突っ込む格好になりました

僕はそこに宇宙を見ました
いくつもの星が生まれては消え、生まれては消えする真っ暗闇の中
僕は四つんばいで頭を突っ込んでいる格好なのにもかかわらず、あおむけになっている気がしましたし、ぐるぐる体が回転しているような気もしました
地球が見えました 
月が見えました
ウサギさんは手を振っています
僕はひどく地球に嫉妬していたように思います
宇宙に嫉妬していたように思います
これほどに美しい惑星たちを無言のうちに包み込む力、優しさ
宇宙からは学ぶべきことが無限にありました

と、僕は突然外から強く、それは暴力といってもいいくらいの強い力で引っ張られるのを感じました

僕は男たちに羽交い絞めにされていました
女子高生は泣いていました
「やめろ、僕は真実を見たかっただけなのだ」と叫びました
駅員に突き出されました
警察が来ました
僕は警察に言われた通りありのままを話しました
殴られました
先生がいつも「自分に正直でなくてはなりません」と言ってくれたことを思い出しました
その言葉だけが僕の支えでした
警察は紙に「私は変態です」と書かせました

先生、あのね
こないだディズニーランドに行ってきました
ミッキーマウスの中身は人間なんだよ、ほんとだよ



自由詩 先生、あのね Copyright 不可思議/wonderboy 2008-09-12 08:00:42
notebook Home 戻る  過去 未来