水銀と黒檀
亜樹

ごらん
あすこの田のね
水面が
水銀のように
ぬたっている

 あすこから
 穂のような爪が伸び
 根のような皺が這い
 虫のような舌が湧く

ほら
あすこの石垣
その隙間が
黒檀のように
さそっている

 あすこから
 葉のような手が揺らぎ
 蔓のような髪が巻き
 花のような能面が開く



眩暈がするようだ
薄まった空
太陽だけがギラギラと



 ほらごらん
 光る水銀
 溶ける黒檀
 あすこから
 萌えるように目は開き
 栄えるように口は倦み
 嗤うことはなく
 謡うこともなく
 人間だけがでしゃばっている


自由詩 水銀と黒檀 Copyright 亜樹 2008-08-30 01:28:55
notebook Home 戻る  過去 未来