夏蚕
西日 茜

明日で一学期が終わるので
仕事用のパソコンを持って帰る
念のため個人データはすべてロック
ああ、重い重い…肩が外れそうだ
エスカレータ登ったら
電車 行っちゃったよ く、くやしい
肩が痛いわ 誰か持ってほしい


電車の中は空いて クーラーが涼しい
みんな、足を投げ出して寝ている
リラックスムードで かわいいなあって
人知れず クスリと笑ったりしている
もうすぐ夏休みだもん
学生は みなのんびりしてる
このごろは時間が止まっているようにおもう
八月になったら勉強することがあって
小金井にある国立大学で講習を受ける予定だ


駅からはタクシーにした
運転手さんが何か言ったような気がしたので
あわててイヤホンを取ったら
無線連絡の音だったみたい
タクシーの中も 涼しかった
ひんやりして気持ちよく 涼んでいると
やっぱり運転手さんが話しかけてきた

「明日は雨かねえ…」
「え?雨、降るんです?」
「降りますよ。すっきり明けないねえ。梅雨も」
「明けて欲しいですね。いいかげんに」
「わたしらの商売もすっきりしなくてね」
「すっきりしないですか?」
「不景気で商売上がったりだからね。その上税金たっぷり持ってかれて」
「損するようにできているみたいですね、世の中って」
「悪い政治家や先生がいい思いばかりしてね」
「働けど、働けどですね。働かないほうがマシですね」
「はい、七百十円ですよ。」

私は細かいお金がなくて千円札を出した
車を降りると、百円玉が三つ手の中にあった
十円おまけしてくれたんだ…


キリキリと傷んだ肩はいつの間にか軽くなり
見上げた空には手洗たらいをひっくり返そうとしている雷さんがいて

今年も夏蚕なつごの命のような短い季節が始まろうとしている


自由詩 夏蚕 Copyright 西日 茜 2008-07-17 17:09:53
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