駅・品川にて
たりぽん(大理 奔)

枕木の間に蒔かれた砕石
それぞれの名前は知らない
久しぶりに訪れた東京のそれ
が、今日の、そしていつもの。

「思い出せない」ということを「忘れてしまう」と言うらしい
だから「知らないまま」のほうがましだなんて。それが今日の。

小さな傷なのに忘れない
「思い出せるよう」に刻まれた
から。刻んだから。刻んだから
ほら古代の石壁に堀込まれた
王の墓碑みたいに尊いじゃない?

文字は軽すぎて刻めない
鉛筆、声は重すぎて沈んでいく
沈殿、黄色い盲人用タイルが危険を隔てる
距離、輪郭が世界をどうしようもなく
かえていく、
危険の向こうに砕石が
それぞれの名前もなく
久しぶりに訪れた
東京の汗ばむ空、の

こぼれたコーラで黒く粘つくひと隅に
この名前にお似合いのちっぽけな石

   忘れられなくすればいい
   刻んでしまえば、思い出すしかないだろう
   黄色い隔たりを越えて、舞い降りる
   枕木の間に蒔かれた砕石に刻もう
   砕石ですら僕を忘れないのならば。


カラスが狂ったように鳴く
目が覚めて、すべり込む
窓にはそれぞれの眠たい顔
「思い出せない」ものは懐かしいものばかりだ
小さな傷なら、自分に刻もう
久しぶりに訪れた東京のそれ
が、今日の

そしていつもの。







自由詩 駅・品川にて Copyright たりぽん(大理 奔) 2008-06-15 01:07:44
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