あのポスト ( 2008 )
たりぽん(大理 奔)

ひどく深い山奥に
その百貨店は建っていた
百貨店といっても実際にはよろずやで
それでも、食料品から最新のテレビまで
なんでも売っているのだ

ダムが出来ると
集落のすぐしたまで水面になるという
七十八になる店主は
神社が沈んでしまうと嘆いていた
店ではその神社が描かれた
絵はがきが売られていた
端が少し黄ばんでいる

ふと、故郷の両親のことが気になった
ひどく不安な雲が峰からわき上がって
谷が夕暮れのようにたそがれる

私は絵はがきを買い求めると
簡単でありきたりな言葉を書き
故郷の住所と共に
百貨店の入り口にある
赤いポストに投函する
カサカサと音がして
手紙は深くへと舞い落ちる

数ヶ月たっても
その手紙は両親の元に届かなかった
郵便事故なのか、それとも
あの集落が幻だったのかはわからない
数枚買った絵はがきの残りの一枚を手にとって
集落への道のりを思い出そうとするが
ぼんやりと行方がわからなくなる

きっと、手紙はまだ
あのポストの中のあって
伝えたかったあの時の私の言葉を
人知れず抱えているのだろう

そしてポストは
この胸の中にあって
あの、暗闇と
つながっているのかもしれないと



自由詩 あのポスト ( 2008 ) Copyright たりぽん(大理 奔) 2008-05-24 18:31:02
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