ウエハース島の思い出 3  〜ユリイカ〜
よだかいちぞう

ウエハース島の頂には
ユリイカという研究所がある
そこではひねもす
ウエハース島に付いての研究が行われている

あまりにも研究熱心な研究者ばかりなので
島が沈み始めて
ウエハース島の頂の研究所より下が
すべて海水に浸かってしまったとしても
かまわずウエハース島の研究を続けることだろうと思う
研究所だけしかもう残ってないのに

ウエハース島にあるユリイカという研究所
そのユリイカという名前の意味を
子供たちは発見しているはずも無かったが
週に一度は子供たちの溜まり場でもあった

あのウエハース島一の研究者
研究所の所長でもある
オキシドドール博士が
子供たちに紙芝居を観せるからだ
もちろんそれは無料で行っていて
子供たちにはお菓子も無料で提供される
子供たちはたぶんその紙芝居よりも
お菓子をメインに紙芝居を観ているのだと思う
オキシドドール博士もそのことは
十分に研究済みで
紙芝居を子供たちに見せたいのなら
紙芝居を見せるより
お菓子をあげることだと
研究用ノートに書き付けている

その紙芝居も
とても変わった紙芝居なのだ
普通、紙芝居は
シーン事に何枚もの紙をめくって
行われるが
この紙芝居は一枚の紙しか使わないのだ
一枚の紙で物語が最初から最後まで
展開されるのだ
大抵はじめは
紙の中央からはじまる
そして最後は紙の四隅のどこかに収まるか
中央にもどって来て終わるのがほとんどだ
紙の四隅のどこかで終わる物語の場合は
ハッピーエンドで終わることが多い
だけど紙の中央に戻って来て終わる物語は
哀しい物語が多いのだ



アルルコールとリタは
その研究所に向かっていた
アルルコールはもう直接
オキシドドール博士から
話を伺っていたが
リタはまだ博士からは
その島が沈むことを直接は聞いていなかった

アルルコールもリタも小さい頃は
オキシドドール博士の奇怪な紙芝居を
熱心に観ていた

リタは特にオキシドドール博士から
島が沈む原因を聞きたいのではなかった
島が沈む原因をつきとめて発見した
オキシドドール博士が
どんな風に居るのかが知りたかったのだ
トレドさんや島の人のように
おかしくなっているのか
それともなにか島が沈まないような研究を
熱心にしようとしているのか
そういことをリタは知りたいのだ



今日はあいにく紙芝居の日ではなかった
研究所の様子は
まったく変わった感じはしなかった
やはりここは
ウエハース島が研究所だけになっても
ウエハース島の研究を続ける場所なのだ
けれども紙芝居はどうするのだろう?

オキシドドール博士の部屋は
子供たちが自由に入れるようになっていて
大きな広間のようになっている
リタはちいさい頃
オキシドドール博士と
一ヶ月ほど同じ部屋に住んでいたことがある
オキシドドール博士はそういう人だ
子供たちをこよなく愛しているのだ

部屋の中から子供が出て来た
アルルコールは子供に向けて云った
「オキシドドール博士は居る?」
子供はこう答えた
「オキシドドール博士は居る」
そういうと子供は外にと出て行った
だぶんあの子供も
この研究所の名前のユリイカの意味を
発見する時期には来ていないはずだ

「子供はおかしくなっていないわ」
と、リタが云った
「でも不安なのは一緒じゃないかな」
アルルコールはリタにそう云った


自由詩 ウエハース島の思い出 3  〜ユリイカ〜 Copyright よだかいちぞう 2003-09-08 13:15:46
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