０８０３１０






気短な機関車が
羽目を外し
下り坂でスピードを上げる
これ以上スピードを出したら
つながれた後部の貨車が
脱線てんぷくしてしまう
そんな心配をするのは
私だけのようで
貨車達は久しぶりの快速に
酔っている
がたぴしがたぴし
よい気持ち
身体中の筋肉を総動員
がたんごとんと突っ張った

安全速度を２５キロも越えたので
緩いカーブを耐えきれず
繋がれている
旧式の２軸貨車が脱線
そのはずみで
次の二重リンク式の新型貨車も
その次の
ボキー台車付きの大型貨車も
ひきづられて脱線
そして転覆
線路際を這いまわり
その重さに耐えきれず
バランスをとれなくなった
Ｄ５１型機関車も脱線
転覆
大音響で
ボイラーが爆発
濛々とした蒸気が
夜を虚しく揺すぶった

時速８５キロで脱線転覆するなんて
機関車は面白くない
後部の旧式貨車が悪いのだ
ヤツらが羽目を外したから
素直な気持ちで付いてこないから
オレは足を引っ張られ
つまずいて転がされ
このザマだ

ぶざまに横たわる
太いボイラーからは
一瞬のうちに
すべての
蒸気が
失われたはずなのに
いくすじもの
蒸気が
なにも背負うことなく
ゆらゆらと立ち昇り
微かな光の中に
なまあたたかい
気配を残しているが
朝が来れば
春だとはいえ
すっかり冷えて
温和しくなるのだと
今でも信じています。