自動扉
千波 一也

それなりの
背丈と重みとがあるわたしに
自動扉は開いてゆく

容易に
開いてくれることが
当然でなければならない、と
わたしもすっかり
慣れてしまって

背後で閉じられる
自動扉の気配のことは
それとなく聞いている

みんな同じはずだから
ひとつの音、として溢れかえらせて
わたしはすっかり
慣れている



「声にはしないことが自然と増えて、それでも
 傷つくことを互いに幾つも数えてきたから、
 素知らぬふりで、あたたかく共有し合えて、
 伝わるものは必ずあるよね。そういうことを
 信じていてもいいはずだよね。流されても、
 忘れられても、思い出すことができるから。
 それがわたしたちにある、大切な場所だから
 小さくて小さすぎて、図らずも、失いかけて
 急いでしまうけれど。みんな、みんな、



 」

ときどき
ひとのこころの行き先が終われずにいる

機械、という言葉そのものが
直らない日の
片隅で



自動扉のその先に
いくつのわたしが消えるだろうか

向かう場所などなんにも知らず
使い古すこと、さえ
失いかけて



それなりの
昔と未来とがあるわたしに
閉じられたまま扉は開く

やさしく、
自動に

聡明に、








自由詩 自動扉 Copyright 千波 一也 2008-02-02 17:55:38
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