飽和
銀猫



浴槽のなかで
泣くと
温まった頬よりもっと
熱いものが滑る

首筋をかすめて鎖骨へ
塩を含んだ水滴が落ちて
水に溶けてゆく

こうしていると
かなしみはまた
薄い皮膚を通して
こころに戻ってしまう
そんな感覚を覚えるが
ひとりで泣ける場所は
そんなに多くは無い

冷えた感情は
いつか飽和を超えて
爪先や目の色に
滲み出てくるだろう


浴室の窓を細く開くと
闇の中に梅の匂いがする
わたしがまだ
冬、だというのに
空気は確実に
暦を辿っているらしい

芽吹く季節に
生まれてくるのは
真新しい涙だろうか




自由詩 飽和 Copyright 銀猫 2008-02-02 16:40:48
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