人口ルビー
千月 話子

真夏のビル内は 冷蔵庫に似て・・・

都内デパートの屋上で 気持ちよく吹くビル風で
コロコロ動き回る子供達を 優しく冷やそう
野菜室の ように・・・

数階に分かれた屋内で 酷使された熱い目玉を
キッチン売り場の 卵置きへ綺麗に並べ
筋肉痛を引き起こしそうな 身体を
お試しマッサージ器の上に寝かせ
汗の染みた服は 匂いを消すために
フラワーショップの脇に置き
ブランド店で買った 高価な商品は
腐らぬよう 一時預かりロッカーに入れておこう
冷蔵室の ように・・・

地下食料品売り場で ひしめく
アドレナリンの 溢れ落ちる床が
その熱で 溶けてしまわぬよう
一層強く 冷やしておこう
冷凍室の ように・・・

しまいには 口も利けないくらい
冷やされて 干からびて
どうしょうも無くなった私は
端っこで入り組んだ商品の影にある
化粧室に 逃げ込んで
乾いて カサカサになった唇の皮を
むいて 剥いで・・・ むいて 剥いで・・・
徐々に 体内モルヒネに幻惑されていく

やがて 自制の効かなくなった私を止めたのは
チクリ と痛んだ唇から染み出した
赤い 紅い 血を見たからだった

そのうち それは大きな粒になり
洗面台の上に 落ち
血中の凝固剤で少しずつ固められていく

そして 次々にやって来る
冷えた人々が流した 赤い血は
清掃業者に集められ
次の日には綺麗に加工されて
デパートで 一番程好く冷えた
宝石フロアーのガラスケースに
ルビーの宝飾品として 売られているのだろう





自由詩 人口ルビー Copyright 千月 話子 2004-06-20 16:27:15
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