地平線
小川 葉

1.少女

地平線の上で
縄跳びをしている
少女がある日
その向こう側に
行ってしまった

縄は残されたまま
速度をうしなわずに
今もまわり続けている

地平線の向こう側には
言葉のいらない
世界があるのだと言う
そこには意味しかなく
しかしその意味さえも本当は
無意味なのだと言う

僕らは意味を失ったとき
つい言葉に頼りがちになる

今もまわり続ける縄の
意味を考えながら
わかりかけては見失う
そんな日々を
これから長い間
過ごさなければならない

少女とは
君が愛した人のことだ



2.少年

地平線の上で
ブランコに乗っている
少年がある日
そのこちら側に
来てしまった

ブランコは残されたまま
速度をうしなわずに
今も揺れ続けている

地平線のこちら側には
意味のいらない
世界があるのだと知る
そこには言葉しかなく
しかしその言葉さえも本当は
単なる音でしかないことを知る

僕らは言葉を失ったとき
つい意味を求めがちになる

今も揺れ続けるブランコの
音を聞きながら
言いかけては口ごもる
そんな日々を
これから長い間
過ごさなければならない

少年とは
誰かが愛した君のことだ



3.地平線

少年は
言葉の世界に暮らし
少女は
意味の世界に暮らした
地平線には
さみしい遊具があった

あれからどれくらい
年月が過ぎたのだろう

錆びついてしまった
心のように
ちぎれてしまった
縄跳びの縄が
崩れてしまった
ブランコが
地平線の上で
速度を失わずに今も
動き続けている

僕たちが生きている限り
僕たちが人間である限り
少年少女は終わらない

世界のバランスが
保たれているように
愛することと
愛されることが
ともに在り続けるように
地平線には
いつだって明日があった

明日とは
愛を信じるということだ


自由詩 地平線 Copyright 小川 葉 2007-12-23 18:28:42
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