ねんねこ
紀ノ川つかさ


この世の常識とやらは
情け容赦無い
時代は再び上昇気流の乗ったと
多くの人々は言うけれど
人々の一人一人の冷たい瞳が
今日にも人を少しずつ
殺している

二人でいればもはや
二人分の義務と責任を
負わされる時代となりました
その二人がどれだけ親しいとか
愛し合っているとか
そういうものは関係無い
どうしようもない時代となりました

さっき車から
ひどく着飾った美女を連れた
業界人みたいなサングラスの男が
降りてきた
いずれあの男は女を殴る
殴るに決まっている
そうとしか思えない
私もまた病んでいる
ねんねこが欲しい
ねんねこが欲しいようと
にゃあにゃあ鳴いている

ねんねこにくるまれ十月十日経ち
二人は流れ流れ去るなり

ねんねこに染みた涙にカビが生え
それでも脱げない死にたくはなく

スーパーの超特売品ねんねこに
頬すり寄せて君を待ちたり

見たまえ!
この街はいつからか
巨大なオカマタレントのポスターばかりが
目立つようになったではないか
権利がどうしたとか
ジェンダーがどうしたとか
そんなものはじめからどうでもいい
どうでもいい問題だったんだ!
そしてそのポスターの下では
小学生の少女が同級生を
カッターで切りつけているんだ
そして見物人達は
加害者か被害者か
どちらを責めれば多数派(勝者)かを
周囲の顔色をうかがいつつ
決めようとしている
多数派の中には同じ多数派同士の
恋も人生もあると信じているが
少数派の中には
何も無い
何も与えられない

私達は
二人では
殺されるだろう
一人は一番強い
どんなに人を憎んでも
どんなに人を妬んでも
一人であるから誰にも迷惑をかけない
一人であるから誰よりも不幸に決まっている
その自信が他人に刃を向けさせるのだろう
私はさっきスーパーで買った
ねんねこを抱きながら
二人が一人に見えるように
しようと思っている
きっとこの季節では汗だくになる
夏が来るのが怖い
でも殺されたくはない
私達のどちらが欠けても嫌だ

初夏なれど空に広がる暗雲に
雪を待ちたる小さき二人

いびられて十月十日の晩のこと
我等の中に鬼の子生まれ

ねんねこに二人入れば敵は無し
我等は愛持ちお前を殺す

ねんねこにくるまれくるえくだけろよ
くれゆくこの世はほらクラッカァ


自由詩 ねんねこ Copyright 紀ノ川つかさ 2004-06-16 23:13:36
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