地獄の詩人
atsuchan69

即興で書いた
デタラメな絵みたいに
世界を、粉々に壊して欲しい
――悪魔と死神。
そして彼らよりも、
さらに残虐非道かつ悪辣な僕・・・・

ふいに質量を奪われて
儚く、空に飛んでゆくビルや鉄塔、
一瞬の爆風に吹きさらわれた
ぐちゃぐちゃに散らかった真昼の街が
焼け焦げた石の塊りと、
複雑に曲がりくねった鉄筋とともに
無惨にも赤裸々に、死が
そこいらじゅうに転がっている

放射能を帯びてはためく
燃え残った大安売りの幟(のぼり)
嬉々として破壊しつづけるのは、
突撃銃を片手に行進する
白い防護服を纏った
すこぶる華奢な機械式幼児たち

 その日、その時。

湖畔に停めた
水色のカブリオレのなかで
相変わらず僕たちは、
きっとまだ肉体的には愛し合っていた

宝石並みのプレミアムの付いた
擦り切れたボロのリーバイスを履いて
まるく穴のあいた尻、
その露出したイヤラシイ肌の
欲情をそそる、パーツ

赤いエナメルのジャケットを着た、
隠れロマン派じみた匂いのする
昼食に生牡蠣を食べた君は澄まし顔で
さっそく大地のクレパスも露わに
熱く呼吸する地獄の深淵を覗かせ
僕は、無限に落ちてゆく鳥の影・・・・
+、お口じゅうチョコレートべっとり

ピンクのリボンで飾られた罪の入り口で
服を着たまま無心に遊ぶ二人

パノラマに景色を見渡せば、
厳しい冬を目前に控えて
在ってある山々の命は紅葉し
茶焼けた一枚の枯葉にまじった
殺意にみちた鮮やかな色彩の
斑紋、そのざわめき

ゆっくりと露天風呂に浸かり、
世俗の出来事を何も知らぬまま
とつぜん山寺の鐘の音を耳にする
檜風呂に立ちのぼる、
湯煙のトワイライト・タイム
甚三紅 (じんざもみ)の寛ぎのひと時

と、同時に君の声――

 もうアガルわ!

浴衣に着替えて携帯が鳴った
躊躇いもなく、電話に出ると「ワン切り」
末尾〇六六六。
不吉であやしい着信番号が表示され、
どうにも嫌気が差したが、
その日、その時。
まだ世界中の恋人たちは愛し合っていた

すると深夜三時頃、
枕元に歯の抜けた死神が立って
スゲーこと、やってみたくね?
と、僕を誘った。

 「やっぱ、どうしても世界を終らせたいのかよ?
 「ちゅーかァ、それが俺の仕事だからな
 「協力したら何くれるの
 「即、一生涯の富と力と、名声

 よし、契約した、
・・・・と、いうのは嘘

 アホらし。

おまえ、これ読んで出直せ
と、僕は死神へ一冊の本を手渡した

 ――ワーズワース詩集

神秘の言葉によって、
もしくは生きた言葉によって
斯くも世界は
在って、あるのだ

不完全極まりない
この見飽きた世界が、
未来永劫に
灼熱の業火に焼かれようとも
詩人の言葉は、
一文字たりとて譲れない

たとえ命と引換えにしても、絶対に


自由詩 地獄の詩人 Copyright atsuchan69 2007-11-25 19:10:30
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