青く煙立つ祭壇
atsuchan69
――夢だ、
霧氷に覆われたトパーズを砕き
経血に染まる白鳥の羽を散らして
辛気くさい柄の絨毯に零した
グラスの割れる夜の激しい物音。
イミテーションパールの首輪を、
女は掻き毟るように乱暴に千切って捨てた
言葉巧みな蜘蛛の巣に絡みつく
不潔な蚤と虱と、砂埃と、
性質(たち)の悪い霊の憑依した博愛。
その僅かばかりの美徳と
石の冷たさが人の心だった
( 既に話した計画どおり、
密会への伏線を街中に張り巡らせた
一匹の子猫を抱いた優しさを屠って、
一発の銃声と硝煙、
一瞬で世界は崩れ落ちる
もはや信じるに価しない幻想の愛に
黄泉へとつづく僕たちの傲慢なる孤独、
それは華奢なマネキン人形の着た
汚れたシャギーコートの毛並みにも似て
動物の死体である、
ホワイトファーのマフラーと
サテン地のインナーのブラック、
ジャケットのローズレッドといった配色。
それらの視覚刺激とはまったく無縁の
荒れた繊維の不快感が肌に付き纏い、
首筋を針で刺すように触る
泥道に投げ出された裸体、
深遠へと堕ちてゆく不確かな記憶の
救われぬ、地獄の炉へと
焼(く)べられるべき古着たちが
僅かばかりに残された樟脳の効果のうちに
追憶を呼ぶ/紫の郷愁を互いに摩擦し、
撚れた年月に染みついた甘い声・・・・
( あーん、うぅふん。
大胆なシャリマーの香りに紛れて
波打つシルクの敷布へと転がる二人
人の心に背く者同士、
美しい野獣の匂いを放ち、
ただ、想いを探るように見つめあう
襟元に見せる黒のレースが、
さも上品さを装って
白い肌を世俗から遠ざけていた
しかし剥きだされた果肉、
――即ち、君は
色鮮やかなピンクの声で
高らかに全世界の哀しみを笑った
秒針が、二人の終わらない吐息を数える
ふり向き様、
雨に濡れた石畳の坂道を
昔の女が、恐ろしく形相を変えて
二人を待って立ち尽くしていた
にんまりと不吉な笑みをこぼしては
タヒチの黒蝶貝の首飾りとともに
やがて枯れ落ちた色の瞳に灯す、
淡褐色のトパーズの煌き
壁に映された長い人影がおどる。
崩れぎわに見た
夢のつづきは、
たぶんB級の映画じみていた
※
質素な日本式住居の窓から
山々の空間を配置した裏切り、
和紙に刷った千代紙を破りつづけて
――地獄。
女と、女、女
妻は産婦人科通いのここ数日、
酷く乾燥した肌の処方として
回復への道程を経た/命のために
澄まし顔でピエ・ド・コションを食べつつ
女として当然の気取りを見せながら
男の総てを吸い尽くし、
ぴんと、マゼンタの唇を尖らせる
それらは、無作法な愛に綴られた
たった数行の、【人】という名の生きざま。
狂おしくも僕たちは唇を重ねて
夢のうちに泳ぎもがいては
飾る花たちの彩りも映え、
屠られた生贄の血の色も鮮やかに
テロと略奪と飢餓の冬が始る。
青く煙立つ祭壇に
今も唯ひとり、
ロマンスを信じつづける君がいた
自由詩
青く煙立つ祭壇
Copyright
atsuchan69
2007-11-20 19:00:24
縦