ここいらでは美味しい○○が採れます
亜樹

岡山県の川沿いでは
桜の花が散りきった頃から
桃源郷の様相が
徳島県の道沿いでは
人々がすっかり衣替えをすます頃
極楽浄土の景色が見える。

それらは別に
通りがかった人間の目を楽しませるために
咲く花ではなく
初夏にさしかかり
実った小さな青い実は
袋がけをする老婆の腰を痛め
木枯らしが吹き始める少し前に
掘り起こされる根は
その泥を落とす課程で
少女の手にひび割れをつくる。

ここいらで採れる白桃は甘い、
と父が言い
土産のレンコンの白さを
母はひどく喜んだ。

人の営みのために
咲く花は
だからこそ
美しい。

薄紅色の花園は
遠い昔に涸れ果てて
また来年も訪れることを約束された
花の季節を待っている。


未詩・独白 ここいらでは美味しい○○が採れます Copyright 亜樹 2007-11-20 22:06:35
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