訳者不在
佐々木妖精

言葉が通じない感覚に囚われている

雨の日はいつも
雨音ばかりが断続的に耳を被うので
言のを見失い
意味も地に叩きのめされたみぞれの様にとけ
やがて排水溝に飲まれてしまう

意味は
友情や恋愛のように
誰かとの関係の中でだけ生まれるので
それが通じないというのは
誰とも関係を分かち合えない
ということなのだろう

俺は自分自身とも
時々関係を結べなくなる

その手は時々
意味からはぐれて
飲みたくないソーダ水をグラスに注ぎ、考える
炭酸が抜ける音の意味を

それはおそらく
時間だけが過ぎ
二酸化炭素が緩やかに部屋の中を多い
毒となって
肺を蝕むという
ゆるやかで、消極的な自死を意味するのだと思う

誰とも言葉が通じないというのは
それはとてもおそろしいことで
誰かに話しかけたく
話しかけようとしても
自分だけが外人語を話しているので
欠けた片言の言葉を発し
ますます孤立する

聞かなければならない
自分が今
誰かにとって意味のある言葉を、発しているのかどうかを


自由詩 訳者不在 Copyright 佐々木妖精 2007-11-15 00:17:00
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