イタリアン・インテリジェンス
atsuchan69

ゼリー状の七色のトポスが死んだ日。――
愛しいカルメラを焦がした甘い匂いまでが
いつか知らないうちに喪に服しちまったみたいで
それは廃れた漁師町の瓦礫の打ち寄せられた海辺にも似て
今宵も古びた広大な屋敷中に漂う、
ゴルゴンゾーラ・ピカンテの青黴臭と靴下のシンフォニー!

きっとオマエが聖職者であれば
彼の日、ゴルゴダの丘を想わせるような
ふぅーっ。一番鶏の鳴く夜の終りに
食卓の上に置かれたクリスタルグラスがひとつ。

キャメルとかいう煙草のケムリに噎せて不手際に倒すと――
潅がれた一杯の水を
乾いた布地に拡げ、
かつてスラブ系純血貴族であったグラスは転げ落ち、
黒御影の床へ 斯くも無惨に叩きつけられた

 意味ナド モウ、ドウダッテ イーョ
 兎ニモ角ニモ 声ノスル方ヘ )))

 彼女ハ、タブンモット感ジテ イタカッタ。

グロテスクな馬頭鯛のポアレを、
視界を奪われた新参ヴァンパイアの少女がフォークの先に突き刺す
前世紀的な無駄の多いデザインの喪服とアイマスク、
白い肌の清純極まる残虐な自尊心が口元で笑う

 眺メノイイ部屋ッテ、アレノ真最中ヲミルトコロ?

勢い、地上擦れ擦れに
ローマから東京へ空中ブランコ。 )))

視界速度で移動するカリャリ出身の軽業師は、
ランニングシャツの胸に【男】の一文字。
瞳に「フジヤマ・ゲイシャ」を映し
いつだって空っぽの頭の中では、
藤山ゲーシャという名の富士山みたいな顔の女をイメージする

ブランコは、高度三十六万キロの
静止軌道の衛星から吊るされていて
しかしロープは存在せず、
往復しあう強力なトラクタービームが二点を繋いでいる

すると某国の巨大な大砲から
人間ロケットが発射された――

ヘルメットを被ったロケット男は無精髭にスポーツ刈りのゲイだった
ランニングシャツの胸に【アポリオン】のハングル文字。
これは「滅ぼす者」という意味であり
その名のとおり某国は人間ロケット発射後、
原子炉を搭載した俄(にわか)作りの大砲が爆発し、独裁国家は消滅した。

IT立国インドでは、
猛獣使いの象たちがライオンに襲われるという
前代見聞の事件が続出。
テレビ局の取材に対し、
自慢の鼻を食べられてしまった「A」さんは
薄暗い部屋に籠って壁を向いたままだが、
複数のテレビカメラと眩いばかりの照明を浴びると 俄然笑顔で振り向き、
――えへへ、豚鼻の象さんでーす。 )))
と、今までとは信じられないくらい明るい身振り素振りで話す

しかしニューヨークであるが、
ダウ工業株30種の終値が前日にひきつづきたった一ドル下落。
これを受けてナスダック総合指数、
S&P総合五〇〇種指数も
ともに一ポイント下げて終了した
市場では殆んど変化のない小幅な取引に嫌気をさして
信用収縮ともいえる悪材料から、さらに小動きの展開となっている

米連邦準備理事会(FRB)は近日中にも
あっと驚く規模の市場介入を行なうとのコメントを発表しており、
これによって賽の目が「半」と出るか「丁」と出るか
じつは株式市場よりも裏世界の方が活況だったりして・・・・

 エーダヨ、ナンダカンダイッテ
 勝手ニヤレバイイダョ。

 今マデノコトナンカ、モゥートックニ許シチャッテルョ

全く意味なんか持たないのであるが、
さてもローマは敬虔でエロく 大らかであり
ふぅーっ。たとえ罪に塗れても、
毎日はいたって陽気だ

人気のないコンチリアツォーネ通りを大玉に乗ったピエロが往く

暗がりの背後には影絵の大聖堂。
――そのベニヤ板みたいな寺院の裏側を、
嘘や妄信だのといった疑心暗鬼の薄汚い心の醜さとかが
もう、使える血管がないくらい注射痕だらけの
細い腕と腕でやっと支えていた・・・・

そうして今も防弾ガラスによって厳重に保護された
サン・ピエトロ寺院のピエタがあった

大理石の一枚岩をミケランジェロという名のゲイ、
イタリアンが削った
たかが彫刻。
何処までも、たかが芸術である

処刑された――
神のひとり子/息子/愛人?
いや、それ以上の男/を、
抱きかかえる/母/女/マグダラの/マリア。

人間的な悲しみのしぐさを圧倒的に上回るほどの
宇宙的視野さえ感じさせる、
もの静かな威容と慈悲

やがて奇跡は、女たちから始まり
いつしかローマを染める暁の色・・・・
夜も終わろうというのに
まだ年老いたメイドがふたり
木っ端微塵のグラスを拾い集めている

陽の光を恐れてヴァンパイアは、
ふぅーっ。ようやく眠りに就くのだった










自由詩 イタリアン・インテリジェンス Copyright atsuchan69 2007-10-04 01:14:39
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