Days in the canvas
atsuchan69

――外国産と思しき、
ずいぶんと安っぽっちい杉板の木枠に
金槌で小ちゃな無数の鋲を打ち込み、
皺なく「ぴぃーん」と
白い亜麻布を張った
自分で拵えた七百号の白いキャンバスへ
左官が使うみたいな
巨大なペインティングナイフで
わざと無配色の汚しを塗りたくるるるるる

直行直帰。時差出勤だらけの
朝から晩までオール出鱈目な日々よ

ヘイ、なんて素晴らしいんだろう!
超高速回転しつづける
斯くも遽しいビジネスマンの孤独。
箕面の新築の家にだって
カレコレ三日も帰っていない

その挙句、妻も子供も
私のことを知らないオジサンという

精緻な絵の中の時間が
七十二時間と十五分を過ぎても
落ちつかない、斑模様のキャンバスを被う
酸化重合反応過程のリンシード油の匂い
なんとなくフツーの暮らしには多分に重すぎる
蟋蟀の鳴く、心さみしい秋の夕べ

水性のアクリル塗料で描きたいのを
あえてヤン・ファン・エイク兄弟の技法に倣って
パレットの上に自らの精液と油、
及び顔料と生卵プラス、コロッケを載せて
グチャグチャに混ぜ合わせる

たとえ自らの命を擦り減らしてでも
この僕が描きたいのは、
ストローで直方体の紙パック酒を飲む
ボルサリーノを被った怪しげなオジンが
酒の肴に蓬莱の豚まん食べながら
大和製菓の味カレーを一袋、
背広のポケットから取り出すその瞬間――
あえて同性愛をも含めた薩摩隼人の悲願、
マラーノのごとき際どさ そのもの。

しっとりと細かな海霜に塗(まみ)れた
黒緑の小倉昆布の愛に
あたり前田のクラッカー、ちゅうか
キンキな関西人なら法善寺横丁の渇丼食うて
堺筋の向こうに黒門市場を眺めつつ
千日前通りをちょこっと過ぎれば、
やがて古びたマンモスキャバレーが数軒ならぶ
あかん、また来ちゃった!
異次元の楢山節考みたいな、
女たちの墓場・・・・

二百坪の薄暗い店内に入ると、
なぜか大正時代の女たち
い、今更ながら
ぶったまげて いざ飛田へ、へへ
若くてベッピン揃いの、
薄い座布団敷いたチョンの間の
僅か半時間足らずの
――逢い・らぁぶ・遊・・・・ )))

その後、タクシーに乗って石切神社参拝。

深夜、寝静まった瓢箪山商店街を腹這で往復し、
朝の陽光に目覚めるとなぜか此処は三軒家(大正区)交差点
とつぜん美味いラーメンが食べたくなったのでワープ )))
近鉄針中野駅を降りて支那そば「友翔」へ

昼のさなかモルタル造りの町をひとり歩くと、
途中、迷子になってやむなく携帯から国際救助隊を呼んだ
生活道路のど真ん中にTB1号機を緊急着陸させ、
厚顔のスコットとふたり無事テーブルに就く

食後は大阪見物がしたいという彼とともに
道頓堀川戎橋界隈を超低空遊覧飛行。
眼下に、クルーズの船がゆく
「スコット、――心斎橋ミツヤのあんみつ、知っとるけ?
「おー! ナイスボート
「うん? あれはキングリバー号やん。
それでミツヤのあんみつ・・・・

まあ、どうでもええわ

やがて夕暮れとなり、
英雄スコットへのお礼にと
西中島でのリップな夜のサービスを接待。
〆に中央軒の長崎ちゃんぽんを食べる
「なんだか君とは麺ではじまり、麺で終わる間柄みたいだ
「おー、ナイスボート!
土産に渡した
折り詰めの大阪寿司を
たぶんスコットは勘違いしてそう云った

こうして宗右衛門町の焼き肉屋で
久々に待ち合わせた綺麗なオネーちゃんと
そのうち行くはずの沖縄旅行の話などしながら、
日本人としては違和感の拭えぬ大鋏を使い、
焼け焦げた肉の塊りを切り分ける。

「結局今日も、直行直帰やったわ
「ええなぁ。アタシらそんな訳にはいけへんもん
「ほな、この後ちょこっと。店へ寄ったろか
「ちょこっとなんて、そんな・・・・

――と、いうような酒と女と男、接待地獄の油絵

なんとなくフツーの暮らしには重すぎる
蟋蟀の鳴く、心さみしい秋の夕べ・・・・かな?









自由詩 Days in the canvas Copyright atsuchan69 2007-10-17 00:39:22
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