鋭角な旅路の先端
灯兎

兎だった頃に住んでいた 詩の檻を残らず焼き尽くして
密度の無い灰と残響で鳴く骸を抱えて 地平を見据える
先にぼやけて見えるのは    何だっけか 名詞も忘れてしまったようだ

カフェラテを飲みながら考えるのは この液体とよく似た自分のこと
自分が嫌いで 時々好きで それでも嫌いで 道を見返せない
明確に南北を指し示す磁針ほどには 自信を持てないから

死にたい死にたい死にたい 生きたい 朝目覚めたらひっそり消えたい
そんな矛盾しない衝動を抱えて せめてきれいな装飾を繕おうとする
崩れた泪化粧に 愚かな追憶は流れて ぼやけた嬌笑を零す

もっと上手いこと仮面を纏えたなら 世界を笑みを返してくれるだろうか
そう願うほどには 子供じゃないつもりだったのだけれども
檻に飽き足らず 体毛と仮面を纏う自分が 結局は最低に幼かったんだ

だから檻を燃やした 前に進むため 淡い光に包まれて死ぬために
それがいつになるかは分らないけれど 少なくとも今はまだ
何処かでまた 包帯だらけの吟遊詩人に会うために 生きるのも悪くはない

片割れの死骸を舐め回しては 愛おしげに奏でるオオカミを見た
嗚呼 お前もこちら側のものなのだろうな 届かない言の葉を燃やす
昔 銀のライオンと聞いた 荒削りなリフレインに 衣装が震える

幾重にも交差する 鋼で出来た自愛の糸が 紡ぐのは
旅路での道連れであり 死への希望であり 愛への絶望であるのだろう

ぼやけて見えていたものが 少しずつ輪郭線の軌跡を取り戻して
手持ちの懐中時計の天蓋に 彼にしか見えない鏡像を結んだ
あれは 生まれたばかりの 小さな 月 ではないか

歪んで堕ちた月に 皮も肉も無いこの身で ささやかな謝辞を捧げよう
ありがとう ありがとう これで暫くは死を繰り返すことも無い

これでまた 愚衆の嘲笑に踊ることができるのだから


自由詩 鋭角な旅路の先端 Copyright 灯兎 2007-09-24 05:20:52
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