ぬるい祈り
灯兎

悪魔さえも棄てた地を目指しては歩く 一つ目の兎
月の代わりに道化師の髑髏を抱え 赤茶けた朽木を踏みつける

こうも詭弁に塗れた世界では 死に追いつかれないだけでも 
目の奥が燃える
サーカス場の道化師は 泣化粧を嬌声に溶かして 眠りに落ちていたのだろう 
いや 死に追いつこうとしているのは自分ではないのか 

こうも欺瞞に塗れた世界では 我を捨てないだけでも 
耳が腐り落ちる
動物園のウサギ達は 今頃詭弁を欺瞞をついばんで 生きているのだろう
いや より死に近づいているのは彼らではないのか

毒地に足を踏み入れる度に 夢のかけらをすすっては生き延びている
大きな声が降らせた毒の雨は 空を覆うはずの星さえも 黒く染めて
この地に青白い光が注ぐことなど無いのだろうか
では俺が目指すのは何だと言われるのか 
それを唯一知っていたのは 霧に融けた砂時計だけ

月夜の薄墨に溶けだした毒を貪り歩く 赤目のオオカミ
楽器の代わりに片割れの死骸を抱え 黒ずんだ骨を舐め回す

こうも装飾に塗れた世界では 目指すべき光など 
とうに力尽きてしまっている
飼い慣らされた犬は 渇いた愛情を差し出されて 尻尾を振っているのだろう
いや ずっと飢えているのは彼らではないのか

こうも非情に塗れた世界では 口にできる物など 
とうに廃棄済みになっている
喰い殺された友は 満たされた欲情を纏って 死ぬことができたのだろうか
いや 永遠に近づいたのは彼ではないのか

毒地を過ぎ去る度に 知恵と貞淑を捨てては生き延びている
小さな囁きが刻んだメロディは 海に沈む貝にさえ 強く響いて
この地に赤い光が届くことなどは無いのだろうな
では俺が目指すのは何だと言われるのか
それを唯一知っていたのは 高音塊の風だけ

ならばせめて この行き詰った世界で祈りを捧げよう
誰のためでもなく 何のためでもなく 誰にも向けずに
赤と青の光でここが満ち溢れるように

ああ それさえも許されないんだったか
神なら 昨日殺してきたから



自由詩 ぬるい祈り Copyright 灯兎 2007-09-10 04:09:01
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