創書日和「淡」
虹村 凌

僕がいるこの街について
君が知る事は殆ど無い
僕がここにいる理由のほかに
何を知っているのか聞きたいくらいだ
それは僕も同じで
君がいるその街について
僕が知る事は殆ど無い
君がそこにいる理由のほかに
何も知っている事なんて無いんだ

ねぇ
あの街のあの喫茶店を覚えてるかい?
二人して適当に選んで入ったあの喫茶店は
なかなか良い雰囲気で
美味しい珈琲を飲ませてくれるお店だったね
珈琲に砂糖をミルクをとかしてかき混ぜる仕草を
今でも覚えているなんて
少し変だよねぇ
僕も時々だけど
珈琲に砂糖とミルクを入れるようになったよ

そうだ
今度どこかに行こうよ
季節が変わったのかどうかもわからないような
苛々するこの街を抜け出して
名前も知らないような場所に行こう
もちろん夜行バスか深夜の列車で行くんだ
行き先なんか何処だっていいんだ
北に向かう何処かで途中下車したっていいんだ
僕は持てるだけのノートとペンを
君は持てるだけのカンバスと筆を
小さなカバンに詰め込んで何処か遠くに行こうよ
苛々するものは全部置いていこう
携帯電話も免許証も銀行のカードも

ねぇ
トンネルの中を照らすあのオレンジ色の光は
きっとあの街を照らす朝日よりも綺麗だよ
二人であのオレンジ色の光の向こう側に出て
あの街とは少し違う匂いをかぎに行こうよ
月も太陽もきっと探さないでいてくれるから
ずっと北へ北へ
冷たい匂いをかぎに行こう
真夜中の匂いはきっと綺麗で
少し膝が笑っちゃうだろうけれど
あの苛々する街の匂いとはきっと違うから

そうだ
水筒には暖かい珈琲を入れていこう
ミルクと砂糖を溶かして
きっと僕らが降りる街は雨が降っているよ
駅の外は雨が降って
僕らはそこで二人ぼっち
淡い光を放つ夕立が
僕らを駅に二人ぼっち

ねぇ
僕はまだ眠れないでいるよ
君はまだ起きてるの?


自由詩 創書日和「淡」 Copyright 虹村 凌 2007-09-18 17:47:09
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