マミについて
ワタナベ

マーミー
悲しい詩を詠ってはいけない

高原に咲く白い花が
ときおりふくかすかな風にゆられて
りんと鳴るその音のように
僕たちが幸せについてささやきあうとき
高原からのびあがって
どこまでも広がる青い空の底を歩く
くるぶしをくすぐる雲のやわらかさに
わらいながら幸せについてささやきあうとき

バス停で
かたむいた時刻表を見ると
怠惰な数字がごちゃまぜにならぶ
見上げた白い月は
無表情で僕を見下ろす
バスから吐き出される人はおらず
飲み込むばかりで飽和してゆく
振り子のようにゆれる車内で
高原の花と雲について
メールをうつ
それは中継アンテナで
造花と白い月に変換されて
あて先違いで戻ってくる

そうさマーミー
悲しい詩を詠ってはいけないんだ
どんなに変換され
いびつな形になって戻ってきても
僕は発信しつづける
そして僕は造花や白い月の白昼夢に包まれて
本当のメールを受け取ることを
ずっと待ち続けて

仕事からの帰り
マンションのいつもの部屋に灯りがともっていないことに気づく
あわてて階段を駆け上がり
息切れした声で名前を呼びながら
合鍵でドアを乱暴にあけて部屋の中へ駆け込む
泣き声が部屋の隅のほうから聞こえる
その声を唯一の手がかりにして
かすかにのこったぬくもりに触れる
急に足場をなくして
どこまでもどこまでも落ちてゆくような
造花や白い月の夢
わかるよ、と言うために必要な勇気は
僕の持つありったけのぶん

だけどマーミー
悲しい詩を詠ってはいけない
僕たちはどんどんお互いをはだかにする
どんどんと、たまねぎの皮をむくように
ふたりがぬくもりと、一滴のなみだになるまで
そうして僕たちが幸せについてささやきあうとき
造花や白い月の夢を抱えながら
幸せについてささやきあうとき
声はぬくもりのなかへ溶けてゆく

マーミー
僕たちは悲しい詩を詠わない
発信しつづけ、はだかにしあいながら
詩は、そう
大気に
高原の白い花も
くるぶしをくすぐる雲も
造花や白い月でさえも
そう
大気に

そして僕たちが幸せについてささやきあうとき

僕たちはぬくもりに





自由詩 マミについて Copyright ワタナベ 2007-07-20 14:51:15
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