松井のバットが鋭い弧を描き完璧にとらえた真ん中高めストレート
力強くどこまでも飛んでいく青い青い雲ひとつない空
見上げる僕等は有象無象の歓声の渦僕はその点景
ボールの赤い縫い目は僕等の夢白地につらい思いもうれしい思いも
縫い方は関係ないとにかく僕らは夢を縫いつけたこれでもかと


はて？


そのボールが
道路の真ん中に落ちている
バイトの帰り道
落ちているものは仕方がない
ドラエモンよろしくバットを取り出す
どこから？


左手でつかむよボールを（思ったより大きい）
よっこらせ、


瞬間
歓声の渦、怒号
４万３千の歓声視線ヤンキースタジアムのバッターボックス
僕は震えながら立っているトーリ監督打てのサイン対するピッチャーはペドロマルティネス
おいおいうそだろ打てるわけねえってもう振りかぶってるしマルティネスかまえる僕
見逃し三振はいやだ振るしかない振る振れば振るとき
打つべし！

カン！

僕のバットが鋭い弧を描き完璧にとらえた真ん中高めストレート
力強くどこまでも飛んでいく青い青い雲ひとつない空
見上げる彼らは有象無象の歓声の渦僕はその主人公
ふるえる膝でダイヤモンドを走り抜けるああ力が抜けそう
飛んでいく飛んでいくボールはフェンスの際で失速し
センターのミットにおさまり歓声はためいきに変わった


振り返れば

いつものバイトの帰り道
月と街灯が煌々とあたりを照らしている
道路にいるのは僕とジョギングのおっさんだけ
歓声はどこへ行ったんだろう？
ぽつねんとした寂しさを振り払って
自転車にまたがる
ゆっくりペダルをこいだ
家路へと

と
通りすがりざま
ジョギングのおっさんが
ぽつりと

”Good job”

僕は背中で応えてめちゃくちゃにペダルをこいだ