創書日和「縁」
虹村 凌

背中を向けて寝転ぶ姿をしばらくの間眺めて
静かな寝息が聞こえた頃にそっと布団を抜け出す
しっかりした鼻緒の下駄をひっかけて
ヴェランダで煙草に火をつけると
よく知らない街の風が煙を遠くまでさらっていった

ポケットの中の鍵を探り当てる
飾りも何も無い質素なキーホルダーを
煙の輪に通して遊ぼうとしたけど
何度やっても輪が作れないので諦めた

地上を走る霊柩車を見て反射的に親指を隠す
あんたに教わった事
もう夜中に爪を切る事も無くなって久しい
黒猫も烏もすっかり嫌いになっちゃった

もう まっぴら

わざわざ切れ味の悪い包丁を買って
それで作った見た目の悪い料理を
心から「おいしいよ」と言う口から
今は

机の上には777円と印刷されたレシートと
223円分の小銭が散らばってる
そこから一円だけつまんで
代わりにそっと鍵を置く

もう まっぴら

朝陽が上る前に
この部屋を出なきゃ
もう朝の私を愛でる事も無いでしょう


自由詩 創書日和「縁」 Copyright 虹村 凌 2007-04-30 12:19:14
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