Don't give up
佐々宝砂

雨が降るので家の中にいる
猫は寝てばかりいる
雨が降らなくても寝ているが
雨が降るとよけいに寝てばかりいる
猫は役に立たないと思う

思うが
冷静に考えれば役に立っているのだろう
と思いながらコーヒーを飲む
ヘッドフォンからは古い音楽が流れて
情けない男が情けない声で情けない言葉を垂れ流す
ケータイにメールがやってきて
情けない男が情けない言葉を情けなく伝えてくる
こちらから伝えるべき言葉はひとつ
だけど私は黙っている

もう捨てようと思う古い大学ノートの中で
二十歳になるやならずの私が
ありえそうにない理想論を吐いている
は!
笑い飛ばそうとして開いた口は固まる
ぽるとがる文の女のように
ピーター・ガブリエルと歌ったケイト・ブッシュのように
なりたかったのではないか私は
は!
また笑い飛ばそうとして開いた口が歪む
私は若かったそれは確かなことだ
明日より今の私は若いそれも確かなことだ
ぷふい!
口が歪んでるから鼻でわらう
これは成功した
私は過去の私を内包している
私は成長しない
私は変化しない
私はただふくらんでゆく

伝える言葉はひとつ
でも私はそれを伝えない
あなたを愛しているのだと
それは幾度でも言おう
あなたは死ぬまで本当に大切なものだけは喪失しないのだと
それも幾度でも言おう

猫は寝てばかりいる
私も今日は寝てばかりいよう
あなたに伝えるべき言葉を
自分自身に与えて
そして今日は眠っていよう


自由詩 Don't give up Copyright 佐々宝砂 2007-03-24 16:29:07
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