若水
佐々宝砂

うっとりと眠っていた二人の鑑賞者は
ココア色の映画館で目醒めた
過去の亡霊の囁きももはや息絶え
湿っぽい空気と静寂があたりを支配している

静寂を保ったまま映画館が崩壊する
暗闇に慣れた目は突然の晴天に盲いるが
どこからか聞こえる硬質なワルツを頼って
二人は緑あふれるプロムナードに進む

惨殺された彫像と気ままに動く遊具の類が
プロムナードを飾っているけれど
盲いた二人はただワルツに惹かれて歩くばかり

ワルツを奏でるのは若水にあふれる噴水
尽きることのないその泉を二人は争って飲む
老いることなく 渇きが癒えることもなく 永遠に




二十歳の作。なんでか急に出したくなった。



自由詩 若水 Copyright 佐々宝砂 2007-03-24 04:46:47
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