太陽を盗んだ男
虹村 凌

警察に殴られた
その眼つきは何なんだと言われて
思い切り殴られた
だから殴り返してやった
煙草を取り返して ついでに拳銃を貰った

白い自転車にまたがって 急な坂を転がる様に下る
ブレーキをかけないで下って 
途中のカーブが曲がりきれないで 本当に転がった
また口の中が切れた

ユウコは窓辺に立ってじっとしていたので
直ぐに見つかった
タータンチェックのパジャマに黒いスカーフ
間違いない
走った

支配者達は眠っている
真夜中の金網を乗り越えて ユウコの部屋に転がりこんだ
息を切らせて煙草を吸ったら思い切り咽たけど
ユウコが楽しそうに笑うから 続けてやって気を失いかけた

「ねぇシン 月が見えないの」
ユウコは悲しそうに言った
「私 太陽が見られない体質だから せめてお月さまが見たいの」
ユウコは窓を開けて深呼吸した
「今夜は新月なんだよ」
ユウコの後ろ姿を見つめながら言った
「あなたが来る夜はいつも新月なのね」
ユウコはこっちを向いてクスクス笑った
「ねぇシン 太陽の話をして」
ユウコは隣に座ってねだった

「太陽はどのくらい眩しいの?」
「まともに目を開けてみられないくらい」
「キラキラしてて眩しいの?」
「ギラギラしてて眩しいんだ」
「ギラギラしてるの?」
「ギラギラしてるんだ」
「どのくらい?」
「この目くらい」
ユウコは目をじっと覗き込んで
ぷっと吹き出してお腹を抱えて笑った
「きっと太陽な綺麗なのね」
「本当の太陽は暴力的だよ」
「いつも血だらけのシンみたいに?」
そういってユウコはまた笑った
このユウコの笑顔の為なら
いつも血だらけだっていいと思えた

きっと今頃地球の裏側では 太陽が無くなって大騒ぎしてるだろう
この傷はパトリオットミサイルにやられたんだぜ
そう言うとユウコは
手で銃の形を作って
ばきゅん
と撃った
いつもみたいに撃たれて死んだフリをした
でもユウコの笑い声が聞こえない
目を開けるとユウコが倒れていた

ユウコの父親に殴られた
その眼つきは何だと言われて
蹴り飛ばされた
口の中がアスファルトの匂いで一杯になって
少し暖かかった じいちゃんの匂いに似てる
じいちゃんはいつも血だらけだった
ばあちゃんはそれを見て何時も笑ってた
じいちゃんは何時も白い自転車に乗ってた
さっき俺が貰ったのと同じ
真っ白い自転車に乗ってた
そうか
じいちゃんもそうだったのか

自転車に飛び乗って 地球の裏側まで走った
パトリオットミサイルが飛んできた
四十四口径が飛んできた
ニューナンブじゃ勝てなかった
でも
太陽を盗んだらこっちの勝ちだ

地球の裏側のみんなに太陽を貸してくれと言ったら
ふざけんなって言われた
石とウンコとハンバーガーが飛んできた
無性に腹立たしくなって聖書に弾丸を撃ち込んだら
太陽が勝手に落ちてきた
それを抱えて走って逃げた
白い自転車は置いてきた

ユウコの部屋を覗いたら ユウコの父親が見えた
入り難かったから手紙を貼り付けて窓の外に置いて逃げた

「太陽が見たい時は このボタンを押してください シン」

次の日 世界は核の炎に包まれた


自由詩 太陽を盗んだ男 Copyright 虹村 凌 2007-03-10 14:03:31
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