愛のテキーラ漬け
水在らあらあ







伊勢の南島町
漁師の友達の両親
おばさんは嫁いでから
一度も休みがない

その息子 親友 純 日本人 世界中を回って
ハワイにたどり着いた波乗り くらげに襲われて
スイス人のマフィアの一人娘と付き合って やられて
アフリカでは 足の裏にたくさん虫の卵植えつけられて
スウェーデン人の彼女と 結婚も決まっていた
ハワイで パキスタンの王子のおっさんと仲良くなって
インドで洪水にあって それでも
実家が崩れて 保険かけて自殺しようと思った 家族の為に
地元では伝説の兄貴のおまえが
俺が知る限り世界一喧嘩が強いおまえが
今は二人の息子のパパ 嫁さんはすてきで
相変わらず
かっこいいぜ

イギリス カンタベリーの西門公園
太鼓腹でドクロマークのセーターが伸びきった
トラックの運ちゃん 刺青
公園の入り口から走ってくる大きな奥さん
中華料理屋のテイクアウェイ振り回して
ものすごい音を立ててぶつかって抱き合う
空が崩れ落ちるような 口づけ

リスボンで入った中華料理屋
包丁が魂のようなしなびた叔父さん
何も言わずに給士する疲れた叔母さんが通り過ぎる瞬間に
おしりを叩く おもいきり

サンセバスチャン
街中の「縦笛」って言う名前のゲイバー
ポパイみたいなやつと
その恋人の舞踏家が
二人して俺に言い寄る
おまえが来て
どっちもあきらめて
トイレに消えてゆく

おまえの幼馴染 アローニャのおじいさん
お婆さんが天国に行って
窓辺で
椅子に座って
西日の中で言う
もうここにいる理由はない

親友 パウロ イタリア人 音楽家
南フランス トゥルーズから北へ一時間
カオーにある恋人ソフィーの実家の二階
ソフィーの誕生日に
兄が溺死してから使われていない部屋で
その兄の残した三弦しかないギターで
めちゃくちゃなチューニングで
作曲する タイトル 九月十四日
ソフィーの誕生日 兄の命日

料理人 ケンジ 神戸人 包丁一本さらしにまいて 西洋に喧嘩を売る
クリスマスプレゼントに何を送ろうか迷って
街中のお店を回る サンタの袋売ってませんか
麻買って 自分で作りなさいといわれる
その袋にクリスマスの飾りをさんざんつけて送る
恥ずかしくて言えんわ 内緒な これ

今日のニュース
宇宙飛行士 アメリカ人 女 仕事仲間の宇宙飛行士に恋をして
地上に帰って ヒューストンからテキサス抜けてフロリダまで
ジャックナイフ持って車で疾走する
その男の恋人を誘拐して殺すために

東京 目黒 薔薇二十一本の花束を持って トリスを飲みながら待つ
恥ずかしいから 薔薇は止まっているママチャリのかごにさしておく
帰り 長いエスカレーターの途中で昇ってくる外人とすれ違う
外人はめちゃくちゃ笑顔で すれ違いざまに 親指を上げる
口紅にまみれる それをぬぐう 口づけ 

横浜 保土ヶ谷 隋流院 大晦日
甘酒を飲んで 鐘を突きに並ぶ
三回叩かして下さい 一つは母に
一つは遠く離れて 限りなく近いあいつに 
もう一つは近くて 限りなく遠くて 宿命を持って傾くあいつに

静岡 三島 S生物学教授宅 新年会
教授は一日に一つお面を作る
私の若い頃はウイスキーを一瓶毎日飲んでいましたよ
奥さんの横顔 見送りに出てきた教授は見送りもせずに夕日を睨んでいる
その顔の美しさ 白髪 お土産にくれた 教授の三冊の詩集にちりばめられた
ろくでなしの真実と 甲虫の体躯ように完璧な 愛

ルカ 芸術家 波乗り 彫師 大自然を見ると欲情する仲間の一人
モロッコの秘密の海岸で夕方 居たたまれなくなって自慰にふける
恋人のルーシーが後ろから掴む
驚きと 愛と 射精 打ち寄せる波の中に

ビルマ オランダ人 
アランチャ バスク人  サンセバスチャン 
子供の名前はセバスチャン
世界を夢見るように過ごすビルマ
世界を見据えるアランチャ
母親二人の家庭 喘息もちの猫
あなたたちに会うたびに 俺達は笑顔だ

モロッコ アジラ 丘の上の 貧民街 金盗まれて
世話になっていたモハメッドのステレオには
ボブかピンクフロイドしかない 朝から葉っぱ吸って 
浜辺にはだしで向かう サボテンをよけて よけ切れなくて血を流して
夜 ペットボトルで作った水パイプで葉っぱ吸いながら
子供たちと遊ぶ 日本に連れってて 日本に連れていって
ここにいたほうが君たちは よっぽどいいよ
貧しくたって それは貧しさじゃない
母親たちが子供を捜しに来る イスラムの影絵
手の 美しさ

アラン ルクセンブルグ 渓谷を二人で歩く
泣くなよ ほら 葉っぱ吸いなよ きっと
帰ってくるから きっと帰ってくるから
夜 洞窟でやっている違法のバーに行く
そこのマスター 飲めたもんじゃないカクテル
このカクテルはあの女に おまえらすべての あの 女に

ルーン ノルウェー人 片腕の歌うたい 同居人
かれの義手 彼の歌声 ルーマニア人の女 カーシャが
彼にはない右手で 愛撫する その愛撫を彼は嫌がる
一緒に作る料理 巻きタバコ 彼のシルクスクリーン
ゴミ捨て場で拾ってきたトランクをトラ柄にぬって
動物シリーズを作る すべてあの女のためだ
北欧の プラチナブロンド 妖精のような彼女の

おまえの母 オルディシア 冬
二十歳で自殺した妹 おまえにとっては叔母さんだ 
サンセバスチャンの港の水に 凍える港の水に 
妊娠して どうしようもなくて そんな時代 フランコの
専制主義の そんな時代さ なあ もういいだろう 
伊勢神宮で買ってきたよ 安産のお守りだよ 
俺 いい主夫になるよ

テキーラをラッパ飲みして
夜の街を歩く サンセバスチャン 午前三時
俺は転んで 泣いて ざんげして 
おまえは叩いて 蹴って 引っかいて 抱きしめて

なあここに この熱い瓶の中に 漬けておけばいい 俺の愛 俺の愛は
ここに漬けて しまって置いてくれ どこにも行かないように
どこにも行けないように

愛のテキーラ漬け それでいいよ
それ以外もうどうしようもないんだから
そうして日々が過ぎて
死ぬときが来ればいい
この世界は愛でできていて
愛情は狂って嵐のように人々をさらって
それはずっと続いてゆくのだから















自由詩 愛のテキーラ漬け Copyright 水在らあらあ 2007-02-10 02:09:55
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