「Pink」
大覚アキラ

資本主義という名の透明な怪物が
ビルの谷間を音もなく駆け抜けてゆく

それとはまるで対照的な緩慢さで
新型都市交通システムが
のろのろとモノレールの上を這っている

銀色の箱型の車両には
鳩の糞がたくさんこびりついて
印象派の点描のように
見事なモノトーンの濃淡を描いている

ぼくは銀色の箱に乗り込んで
資本主義の踏み荒らした痕を辿ってゆく

狩りはすでに始まっている
息を潜めろ
目を見開け

ぼくは戦士だ
古代の王に仕える
誇り高き戦士だ
すべてを噛み砕く
血に飢えた巨大なワニだ
都市を跳梁する
しなやかな形を持った音楽だ
幾千万の朝と夜を超えて
現在に屹立する鋼鉄の精子だ
ピーナッツバターを塗ってバナナを載せた
マクビティダイジェスティブクッキーだ

新型都市交通システムの銀色の車両は
徐々にその速度を上げてゆく
四角い箱型は流線型に形を変えながら
すべての駅を通過して
ホームに立つ人々を飲みこんで
凶暴なミキサーのように唸りながら渦を巻く
血飛沫をまとった銀色の円盤になる

血の赤と透き通った銀色が混ざりあって
輝くようなピンク色の光を放つ円盤
その中でぼくは
資本主義を殺す瞬間を想像して
ただ身震いしていた


自由詩 「Pink」 Copyright 大覚アキラ 2007-02-01 12:29:14
notebook Home 戻る  過去 未来