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川の畔の土手に腰掛け
考える人、のポーズを取る私を
周囲で風に揺られる{ルビ秋桜=コスモス}の花も
飼主に引かれ、小道を従いてゆく犬も
みんな秋の琥珀の黄昏に包まれて
....
夕暮れの無人の教室に入った私は
黒板に、白いチョークで
自分のからだを描き
胸には 我 と一文字書いてみる
(その顔は、何処か悩んでいるようで)
黒板消しで、さっと ....
どうすれば僕は
急坂さえも一気にのぼる
機関車男になれるだろうか?
この腹に内蔵された
エンジンの蓋を開けたら
思いの他にぼうぼうと
炎は燃えていたのです ....
目の前に、焼きたての
丸い{ルビ麺麭=ぱん}がある。
何の変哲もないその麺麭は
その少し凹んだ丸みは
その味わいは、きっと
世界の何処にもない
たった一つの麺麭である。 ....
無数の髪は今日も伸び
目は開き
耳は聞き
鼻は吸い
口は吐く
首は支え
手は掴み
左の胸は一生涯とくり、とくり、と脈を打ち
腹は昼頃、鳴るだろう
そしてお尻はもよお ....
風を入れよう
部屋の窓を開けて――
カーテンが膨らみ
風が巡れば
生々発々と充ちてくる
我が心はまっさらな
空になる
山桜を眺めると、落ち着いてくる
白い花々は、何処かうつむいているから。
山桜を通り過ぎると、落ち着いてくる
派手さは無く、思いをそっと抑えているから。
遥かな国の方向へ
さ ....
手にした筆で
ま白い半紙に ○ を、描く。
○から世界を覗く時
自らの高鳴る鼓動が聞こえ…
今・息を吸うては吐いている
いのちの不思議を思う
うっとりと瞳を閉じて
光の石を両手に乗せて
立っている円空さん
静かないのちの歓びが
体の隅々まで葉脈を巡らせ
行き渡っているようです
森に佇む木の体
日向 ....
塩を振られたなめくじは
縮みあがった僕なのです
縮みあがった僕だけど
今は一児の父なのです
一児の父であるならば
縮みあがった、この体
自分らしくのそぉりと
濡 ....
仕事から帰ると嫁さんが
「はい、これを見て!」と新聞を手渡した
※今週の本・Top10※
1位…
2位…
3位柴田トヨ「くじけないで」
4位…
5位…
6位柴田トヨ ....
だらりと垂れ下がった両足の
Sさんが住む団地のドアを
「おはようございます」と開けてから
僕と同僚で、車椅子の前後を支え
(重たい・・・)と心に呟きつつ
がたん、がたん、と階段を下 ....
ふいに足を止めた、夕暮れの帰り道。
畑の道の傍らに、夕陽のあかねに染まる
とうもろこしの草々は、きれいに整列して
緑の背筋をまっすぐ伸ばし
両腕の葉をひろげながら
顔を揃えてに ....
車で信号を待つひと時は
役者が舞台にあがる前の
あの瞬間、に似ている
交差点を
右から左へ、左から右へ
車はゆき交い
のたり、杖をつくお爺さんと
たたた・・・と駆け ....
在りし日の祖母の部屋にて
スタンドの灯をぽつんと点けて
幼い頃に玩具で遊んだ
炬燵の机の細かい傷を
じぃ・・・っとみつめた
向かいの座布団の上から
からだの無い
祖母のに ....
駐車場に停まった
車の助手席から眺める
スーパーの硝子の向こうで
ベビーカーを押しながら
おむつを買っている、妻の姿
長い間、出逢わなかった
二つの道が一つになっている
....
在りし日の婆ちゃんが
出来たての熱いスープを出した後
つぶやいた、あの日の一言。
「ちょっとしたことで料理は、変わる」
さて、あの頃よりも
少々大人になった僕は
今日の場面 ....
道の暗がりに棄てられた
凹んだ空缶を拾い、日溜りに置いた。
遠ざかり、振り返った僕を呼んで
透きとほる手をふっている
何もない所に
一つのドアと
見知らぬ場所へ昇ってゆく
階段があった
昔見た夢で
ドアの向こうの階段に
どう抗っても行けない所で
ぱっと目が覚めたが
僕はこれまでの生の歩みで ....
職場で調子が出なかった日
凹んだまま布団に包まり、さっさと寝た。
目が覚めて、妻が見ていた
朝のニュースは
{ルビ白鳥=スワン}の舞を
世を去った母に捧げる浅田真央
場内 ....
日常に潜む「?」という文字から
背を向けてないか?
逃げようとしていないか?
いつからか、目の前に
私と等身大の氷塊が、ある。
足元に一本の斧が、置かれている。
目を凝 ....
ほんとうの深呼吸をしよう
北国を旅した時に泊まった宿で
火鉢の前で両手を暖めるひと時のように
ほんとうの手紙を書こう
血の通わない文字のメールを
百通送信、するよりも
旅の便 ....
生まれた時から
小さい掌は、何も持っていなかった
大人になるにつれて
大きい掌は、様々なものを持つようになった
やがて訪れる夜、掌は「闇」に覆われるだろう
*
....
知っていますか?
あなたのいのちの中心に
たった一つの水晶が
{ルビ永遠=とわ}に光っていることを
私の詩は、一つの庭。
暖かい陽のふりそそぐ庭に根を張る
草と木と花
土の下に張り巡らされた
地底の家へ
今日の食物を運ぶ一匹の蟻の、愛しさよ。
今・私の詩を読んでいるあ ....
目の前の、自由への扉を開く
たった一つの鍵は
この掌に、置かれている。
聴く、という姿勢で
石の上に腰かけ
微かに首を傾けながら
瞳を閉じる少女よ
冬の冷たい風に襟を立て
凍える私の前で
風に耳を澄ます
銅像の少女よ
閉じた瞳の裏に ....
遠くに見えるあの富士は
名所と言われているけれど
今・この詩を読んでいる
さりげない姿勢のあなた自身が
同じ地面につながった
世界にひとりの、名所です。
(日ノ本の全て ....
私を愛する{ルビ瞬間=とき}
一滴の涙はあなたの頬を伝い
ラファエルの描いた
天使になる
ほんとうに心配なことは
まるごと天に預けよう
あまりに小さいこの両手は
潮騒を秘める貝として、そっと重ねる
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