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  驚くに値しない
  あなたの指のなかに
  古い町がひとつ埋まっていようが


  青い部屋でわたしは 静かなチーズを齧る
  散らばっていた 丸い 悲しみの粒を
  一列に ....
  硬い建物は
  不躾な質問に似ている


  夏の朝、
  青い樹がそよぎ
  世界から こぼれ落ちそうになると
  わたしは動けなくなるのだ
  かつては二つ並んでいたが ....
  父さん、母さん
  くさむらで鹿が跳ねています
  団栗がそこらじゅうで黙っています
  西陽に つらぬかれた 海馬の影が
  フィドルの調べにさそわれて
  妖しくはしります… ....
  あの後、わたしたちは
  ふたりで 雨の骨をひろった
  萎れたすみれの花に似せて
  造られたかのような
  蒼い 夕暮れ
{引用=−−フレデリック・ショパン「夜想曲第十番」に}

  石膏の雨は
  落ちてきて 割れた
  さっき みじかい嵐は
  苔いろの器を引っ掻いていた


  渦のような部屋の 何 ....
  左脳のなかに
  右脳が休んでいる
  縁石に腰かけ、私たちは
  玉砂利をつかった遊びに耽る


  あとほんの少し風向きが変われば
  瞼の暗闇にともされた炎のかたちがわ ....
  なめくじは あなたの頸に似ていた
  固い紙袋から ぶどうパンをかじって
  わたしは こっそり あなたの頸をみつめた
  どこにも ふってはいない 雨の音
  どこにも たどり着 ....
  小さな山羊たちが
  ぬれた坂をおりていく
  夕暮れ時は、浜からの風が
  舞いあがる砂と 金いろに踊っていた
  こんなことも すぐに わすれていくのだろうが
  私たちは  ....
  あなたにも見えているはずだ
  うつわにそそいだ牛乳の
  薄皮のうえで 時間が滑っていくのが
  私たちはこの椅子に座っているが
  やがて立ち上がり部屋を出るが
  何年か前
  村娘ということばを
  書きとめておいた筈の紙に
  もうなにも書かれていない
  のど飴のにおいのする部屋
  朝の間、わたしたちは
  買ってきた果物をかじっ ....
  疾うの昔に
  灯りは消されてしまっていたが
  {ルビ空=そら}の部屋に、青さだけ残っている
  それ以外はみな どこかへいってしまった
  わたしは 幾つか咳をこぼす
  そ ....
  そこの膝掛けの上に置かれている
  一匹の沢蟹なのだが、
  数日前にある男が用いた
  あわれな比喩の成れの果てだ
  今となってはその詳細は思い出せない
  それに彼は十中八 ....
  宇宙船は庭にうかんでいた
  宇宙船はトマトのように赤かった
  宇宙船は言葉のようにつめたかった
  どうでもいいが窓際でティッシュペーパーをしいて
  二週ぶりに伸びた爪を切っ ....
  硝子に映った一頭の駱駝は
  あなたのまわりのどこにもいない
  オアシスには細かい霧の粒が浮かび
  かれの毛並みを気高く妖しくみせているが
  大きな{ルビ二瘤=ふたこぶ}にか ....
  蛇口は しばしば朝だった
  時折それは睡蓮だったし
  無口な背の低い青年だったのだが
  腰から下を火燵にしまいこんで あなたが
  丸っきり正気をなくしているときなどは
  ....
  貘の食べ残した悪い夢が
  きみの唇のまわりに散らかっている朝
  窓越しにみえる庭は 素晴らしく綺麗だ
  気丈な松の樹に 少しだけ雪がかぶさって
  玉砂利は少女のごとく濡れ  ....
  煮豆を口に運んでいるあなたは
  だれかの真似をしているふうなのだけれど
  わからないし どうでもいい
  椀に添えられた手は
  貧乏臭くひび割れているし
  化粧気のない頬 ....
  朝早くに
  古臭い詩をわたしは書いた
  潮水に濡れた岩間を縫って這うように歩く
  数匹の蟹の節足のことなどを



  カーテンのあちら側で降っている雨が
  薄笑い ....
  その町は無口なので
  バナナという言葉がひとつ
  朝の庭で凍りついている
  曇った窓の向こうでは
  魚一匹棲んでいない
  汚い川に沿って伸びる土手を
  雪をかぶった ....
  西日でぬるくなった床に
  灰色のハンチング帽を落とす
  埃の膜がふんわりと散って
  光の白い模様を描く
  リュックサックをベッドに抛って
  窮屈なコートをハンガーにかけ ....
  六月
  君は椅子に掛けて
  ジグソーパズルをやっていた
  薬缶が沸くのを待ちながら
  壁にもたれて
  僕がそれを見ていた
  六月
  外は雨で
  夕方の部屋に ....
  別の女の
  別の乳房を吸う
  長い街道を歩いてくる
  晴れた日の草原のような
  パッヘルベルのカノン



  男は捻じ曲がった枝
  女は雀蜂の巣
  青空の ....
まんぼう2さんの草野春心さんおすすめリスト(22)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
並べる- 草野春心自由詩16*15-5-23
不躾な建物- 草野春心自由詩515-5-17
人生- 草野春心自由詩215-5-5
雨の骨- 草野春心自由詩415-4-25
石膏- 草野春心自由詩415-4-8
- 草野春心自由詩515-4-3
なめくじ- 草野春心自由詩415-3-22
坂をおりる- 草野春心自由詩415-3-21
時間- 草野春心自由詩315-3-16
のど飴- 草野春心自由詩215-3-14
青い部屋- 草野春心自由詩315-3-8
あわれな比喩- 草野春心自由詩414-8-3
宇宙船- 草野春心自由詩414-7-24
硝子に映った駱駝- 草野春心自由詩414-7-19
朝がくるということ- 草野春心自由詩3*13-12-14
王の庭- 草野春心自由詩913-12-7
煮豆を口に運んでいるあなたは- 草野春心自由詩613-10-27
古臭い詩- 草野春心自由詩10*13-10-12
無口な町- 草野春心自由詩512-1-12
裁縫- 草野春心自由詩7*11-12-29
六月- 草野春心自由詩10*11-12-11
別の女- 草野春心自由詩411-12-5

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