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彼女が一枚のメモをのこした
その筆跡を正しくなぞって
彼は彼女になり代わって
亀や葡萄のイラストを描いた
タイムマシンはきっとあって
時間が10年遡って
また10年の時間が過ぎると
彼女 ....
うらぶれた母屋の近くで
朽ちていく頼りない樹木に
果物が二つも実って
どちらかは甘くなれない
かつて生活があった土地に
ヤクルトの容器が風に転がり
明るく後に暗い空を
椋鳥の群れはう ....
驚くに値しない
あなたの指のなかに
古い町がひとつ埋まっていようが
青い部屋でわたしは 静かなチーズを齧る
散らばっていた 丸い 悲しみの粒を
一列に ....
硬い建物は
不躾な質問に似ている
夏の朝、
青い樹がそよぎ
世界から こぼれ落ちそうになると
わたしは動けなくなるのだ
かつては二つ並んでいたが ....
父さん、母さん
くさむらで鹿が跳ねています
団栗がそこらじゅうで黙っています
西陽に つらぬかれた 海馬の影が
フィドルの調べにさそわれて
妖しくはしります… ....
あの後、わたしたちは
ふたりで 雨の骨をひろった
萎れたすみれの花に似せて
造られたかのような
蒼い 夕暮れ
{引用=−−フレデリック・ショパン「夜想曲第十番」に}
石膏の雨は
落ちてきて 割れた
さっき みじかい嵐は
苔いろの器を引っ掻いていた
渦のような部屋の 何 ....
左脳のなかに
右脳が休んでいる
縁石に腰かけ、私たちは
玉砂利をつかった遊びに耽る
あとほんの少し風向きが変われば
瞼の暗闇にともされた炎のかたちがわ ....
なめくじは あなたの頸に似ていた
固い紙袋から ぶどうパンをかじって
わたしは こっそり あなたの頸をみつめた
どこにも ふってはいない 雨の音
どこにも たどり着 ....
小さな山羊たちが
ぬれた坂をおりていく
夕暮れ時は、浜からの風が
舞いあがる砂と 金いろに踊っていた
こんなことも すぐに わすれていくのだろうが
私たちは ....
あなたにも見えているはずだ
うつわにそそいだ牛乳の
薄皮のうえで 時間が滑っていくのが
私たちはこの椅子に座っているが
やがて立ち上がり部屋を出るが
何年か前
村娘ということばを
書きとめておいた筈の紙に
もうなにも書かれていない
のど飴のにおいのする部屋
朝の間、わたしたちは
買ってきた果物をかじっ ....
疾うの昔に
灯りは消されてしまっていたが
{ルビ空=そら}の部屋に、青さだけ残っている
それ以外はみな どこかへいってしまった
わたしは 幾つか咳をこぼす
そ ....
それでも無性に
奇蹟のような
あのしょくもつへ
生理ではないが
舌は時折
のびようとして
それがとても
せつない葛藤だ
労働者にと工夫され
提供されつづけて
AD201 ....
訂正前
叛文の一部に娯起があります。
釘正してお詫び毛しあげます。
↓
帝政中
本文の一部に誤記があります。
訂正してお詫び ....
「見て、散歩させているあのおじさん」
彼女はそう言って顔を向けた
屋外で共同作業を行っていた
「ねえ、似たのを選ぶんだって」
彼女の真ん丸な瞳が見上げる
....
弾倉に 真実を こめて
虚偽に 狙いを さだめて
撃ち抜いたが 最後
自分の背 なんて ジョン
商品広告のキャッチコピー
からきみが作り上げた
幸福は あたたかな銃
冷酷な それは暗 ....
そこの膝掛けの上に置かれている
一匹の沢蟹なのだが、
数日前にある男が用いた
あわれな比喩の成れの果てだ
今となってはその詳細は思い出せない
それに彼は十中八 ....
「yes」
○解説
・やや倍率の高い虫眼鏡を用いてみればよいかと思います。
・人間や世界、歴史などへの知的関心をそれなりに求めてくる性質のものでしょう。
....
宇宙船は庭にうかんでいた
宇宙船はトマトのように赤かった
宇宙船は言葉のようにつめたかった
どうでもいいが窓際でティッシュペーパーをしいて
二週ぶりに伸びた爪を切っ ....
硝子に映った一頭の駱駝は
あなたのまわりのどこにもいない
オアシスには細かい霧の粒が浮かび
かれの毛並みを気高く妖しくみせているが
大きな{ルビ二瘤=ふたこぶ}にか ....
くぐり抜けたかった
なんとしてでも
くぐり抜けたくて
懸命に
くぐり抜けた
くぐり抜けると
抜け出せず
とうとう
この手が
こわした
このごろ
夜になると
湖の畔で
子がひとり
菓子箱を釣り上げる
歳を尋ねても
教えてはくれない
何度も尋ねる
そのうちに子も
尋ねかえしてくる
人に話すと
誰も信じず笑うが
ほ ....
時の意味を問う
午前は
萌黄色の航海である
海に
漕ぎだすための一本のオールは
時間の形をしている
私たちは
沈むまいと
午前を漕ぐ
太陽が昇る所を目指す
失われた午前は
....
蛇口は しばしば朝だった
時折それは睡蓮だったし
無口な背の低い青年だったのだが
腰から下を火燵にしまいこんで あなたが
丸っきり正気をなくしているときなどは
....
貘の食べ残した悪い夢が
きみの唇のまわりに散らかっている朝
窓越しにみえる庭は 素晴らしく綺麗だ
気丈な松の樹に 少しだけ雪がかぶさって
玉砂利は少女のごとく濡れ ....
煮豆を口に運んでいるあなたは
だれかの真似をしているふうなのだけれど
わからないし どうでもいい
椀に添えられた手は
貧乏臭くひび割れているし
化粧気のない頬 ....
朝早くに
古臭い詩をわたしは書いた
潮水に濡れた岩間を縫って這うように歩く
数匹の蟹の節足のことなどを
カーテンのあちら側で降っている雨が
薄笑い ....
小人が乗用のために
農地のミツバチを盗み出して
長いことドライブを楽しんだ後に
今さらながらそのことを悔やんで
思い出したように坂を下る
今さらなのにそのことを悔やんで
死なない薬を一粒飲 ....
庭先が散らかり
物陰が増えていく
見覚えのあるような
雀ほどの大きさの
鳥の形のたくさんのもの
手遅れになってしまった
忘れることが出来ないものを
正しく思い出さないために ....
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