奇跡
あおい満月

『奇跡』               あおい満月

あなたは私を、
べしゃべしゃになるくらいに
叩き潰した。
私は鏡にそれを全部叩き映した。
あなたはそれを知らないままに
私を思い通りの人形の型にはめようとした。
私はその思念の奥にできた小さくも大きな
大国から逃げ出した。



あなたをなくして、
一人になった私は、
心のどこかに蟻の巣をつくった。
蟻たちは毎夜に入っては出て行った。
私は夜が楽しかった。
けれど深夜を過ぎる度、
どこか寂しくなった。
人は環境が苦しいほど、
つかの間の愛がない限り嘘つきになるという。
わたしもあなたに数え切れないほどの嘘をついた。
あなたは感づいていたけれど、
雲のように掴みどころがなかったために
知らないふりをしていたに違いない。
私は嘘をつくしかなかった。
そうして自分を慰めてきたのだから。

※※

あなたは兵士になって、
私の部屋をくまなく漁る。
やましい新聞や雑誌はないだろうか。
見えないパソコンには卑しいメッセージは
ないだろうか、
あなたは蟻になってくまなく私の領域に入り込もうとする

あなたは本が嫌いだ。
私が買ってきた本は全部床に投げ捨てる。
あなたは本当は私を愛している半面私を憎んでいる。
私にはわかる。
あなたは正直だ。
たった一滴の油だけでみるみる裸になる。
娘に「死ね」と怒鳴る。
夢か現か区別も解からないままに。
そうして翌朝には生まれたばかりの胎児になって
朝御飯をねだる。

※※※


あなたは、自分には何もないと嘆く。
けれど、私にはことばがある。
これもあなたが私を産んでその血から通してくれた結晶だ。
わたしはこれを生涯抱き続ける。
あなたはまだ知らないかもしれない、
偽装のような確かな愛が生んだ奇跡を。
あなたは今、黄金色の恍惚に埋もれている。
いつ果てるかもわからない幻想に
目隠しをされたまま。


自由詩 奇跡 Copyright あおい満月 2015-12-27 20:00:37
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