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──献杯の酒を飲む夜に
* * *
高校三年生の頃、僕は恋をしていた
あんなにも好きだった娘(こ)に
教室で話しかけることもできず
震えながら・・・告白しようとした
夏 ....
いくら頭を抱えても
仕方のないことで
うじうじしている自分の{ルビ面=つら}を
本の頁から取り出した
厚手の{ルビ栞=しおり}で、ひっぱたく。
黒い布が二本
電信柱に結ばれて
風にひらひら泳いでる
長い夜を越えて
透き通った柱に掴まった
僕等の姿のようだ
あの柱には
きっと
僕等のいのちを生かす
ほ ....
わたしは一切のものを
この業欲な手に
所有することは、できない
わたしが一切のものを
この手から離す時
初めて、目に映る世界の姿は
{ルビ完=まった}き天の、贈りもの ....
この数日間、僕は東京に所用があり、一人の時間はぶらぶらと気の向くままに、都内を歩いていました。数日間の休みの間に僕が心温まった「ちょっといい話」を、旅の便りのように皆様に贈るのもいいかなと思い、この ....
人はいつか皆
炎の内に燃える
黒い影となり
溶け去る
異国の川の畔で
数時間前に
細い息を吐いていた老婆が
白い骨になった時
彼の脳裏に何故か
旅立ちの日 ....
(大人になった)と思う時
すでに楽園は、消えています
幼子のこころそのもので
世界に瞳を開く時
この胸はいのちの歓びに高鳴り
すでに楽園に、入っています
( 知恵の赤い ....
地面に落ちたタバコから
煙がひとすじ昇っていた
誰にも気づかれないよう
踵で踏んで、消しておく
いたずらな風が吹いて
火の種が、人の間に
燃え移ることのないように
....
玩具銀行の赤い判子を押した
福沢諭吉の万札を短冊代わりに
笹の葉群に吊るします
夏の涼しい夜風が吹いて
はたはたはたはた
数え切れない諭吉さんが
笑います
時折ちらり ....
ふいに手にした{ルビ銀匙=スプーン}を
見下ろすと
逆さの僕が
こちらを見上げてゐる
銀匙に映る小さい僕と
銀匙を持つ大きい僕の
瞳と瞳の間を
結ぶ
透きとほった時 ....