すべてのおすすめ
コップを割ってしまった
深夜ひとりで
お寿司をにぎっていただけなのに
お刺身はさくのものをスーパーで買ってきた
赤くて二割引できれいだった
酢飯は作り方がよくわからないので
知 ....
水槽を抱えて
列車を待ってる
水槽の中には
やはり駅とホームがあって
幼いわたしがひとり
帽子を被って立っている
ある長い夏の休みの間
ずっと被っていた帽子だった
水の中もやは ....
氷、と書かれた布製のものが
海からの風にそよいでいる
大盛の焼きそばは皿いっぱいに広がり
けれどできる限りの表面張力によって
その外形を保っている
去勢されたばかりの犬が
日陰で餌の ....
○父
窓から庭のブランコを
眺めることが多くなった
あれにはもう一生分乗った
と言って
時々体を揺らす
背中が
押されるところではなく
支えられるところとなってから久し ....
月工場で
おじさんたちが
月を作っている
その日の形にあわせて
金属の板をくりぬき
乾いた布で
丁寧に磨いていく
月ができあがると
ロープでゆっくり引き上げる
くりぬ ....
父の見舞いに行くと言って家を出た
船橋までの直通の快速に乗ったのに
途中千葉駅で降りて映画を見た
アメリカのアクションものだった
無責任に人が死んでいくのが嬉しかった
夏の終わ ....
紙の羊が
食べたそうにしていたので
紙の草をつくった
今日はたくさんの流れ星だね
あれはホタルさ
きれいだね
命みたいだ
子鬼が
ざくろの実を食べた
僕はひとり
校庭で体育座りをしている
世界が夕暮れていく
どこかでまた
朝焼けをつくりながら
鳴き方を忘れた
紙の羊の代わりに
今日は僕が
鳴いているらしい
窓の外には
長方形のホテル
清掃局の車が
積乱雲を
斜めに横切っていく
まだ幼い車掌の
ポケットの中で
紙の羊は
長く生きられない
かつては命の一部として
穏やかな日の光を
浴びていた気もするけれど
めー、と
ひとつ小さく鳴いて
もう誰に
....
羊とシーソー遊びをすると
いつも重い方が沈みました
両方が沈まないでいるのは
とても難しいことでした
わたしはまだ
言葉をよく知らなかったのです
+
眠れないとき ....
言葉と
拙い花瓶の
間に
めり込んでいる
弾丸
ある日ふと、音もなく
内戦が始まった日
わたしは回転扉の外で
小指に満たない大きさの
硬い虫をいじっていた
失望し
憤怒し
....
ベランダの浮輪に
バッタがつかまってる
夏、海水浴に
行きそびれて
書記官は窓を開ける
木々の梢の近く
監査請求書が何かの水分で
少し湿っている
白墨の匂いを残して
物 ....
男は椅子に座っている
頭の上には青空が広がっている
けれど屋根に支えられて
男は空に押しつぶされることはない
屋根は壁に支えられ、壁は男の
視線によって支えられている
目を瞑る、それ ....
鼓動のように雨戸は共鳴し
残余するものはもう何も無い
火傷の痕は指に育まれ
心の貧しいものだけが
人になることができる
その線をこえてはいけない
黄土色の骨に包まれた肉体
もはやそ ....
使い古された祈りのように
どこまでも机が並んでいます
その先には針葉樹林があって
仲の良い母と子が
なくした傘を探しています
木洩れ日が揺れて
ときどき音なども聞こえてきます
人体模型は海を見ていた
筋肉の組織も内臓も剥き出しなのに
それは自分の何をも語りはしない
こうしていると
かつては本当の人間だったのかもしれない、と思う
電池の切れた玩具を
大事そうに ....
コピー機の隣に
幼なじみが立っていた
靴を片方なくしてしまったと
挿絵のように
静かに泣いていた
右手を左手首のあたりに添えるしぐさは
昔と同じ感じだった
野で摘んできた白い花を ....
父は毎日仕事で帰りが遅く
平日は構ってもらえなかった
父は日曜日になるとキャッチボールをしたがり
僕はよく公園に連れて行かれた
普段からあまり活発な方ではなかったので
あまり楽しくはな ....
小さな神様が
春の雨に打たれていたので
傘をさしてあげた
神様はありがとうを言って
釣竿を垂れると
雨粒の中から
虹色の魚を釣ってくれた
魚は苦しそうに跳ねていたけれど
自分は誰も苦し ....
ぼくの隣
静かなきみのポケットに
たぶん幼い
春が来ている
手を入れれば
指先に形のない手触り
必要な幸福は
それで足りる
春になったら
そう言い続けて
ぼくらは今
何を ....
ノックをしてみる
と、きちんとノックが返ってくるので
僕は待ってる
春になって数回目の風が吹く
見上げる空の青さも
鳥の羽ばたきも
風にさらされている皮膚も
本当は多分
言葉でしか ....
空をさす小枝のような
父の指に
赤とんぼがとまる
お父さん
声をかけると
赤とんぼを残して
父は飛んでいってしまった
驚かせるつもりなんてなかった
いい年をして、と
笑われるか ....
父の髭を剃る
一週間たった柔らかいのを
電気で剃るのは難しい
首など歯のあたりにくい所は
よく伸びる皮をひっぱて剃っていく
その薄くなった皮膚の下に
赤くて細い血管が透けて見える
こ ....
母が縄跳びをしている
僕はしゃがんで回数を数えている
あんなに腰が痛い
と言っていたのに
背筋をピンと伸ばして
交差跳び、綾跳び、二重跳び
次々ときれいに跳んでみせる
既に数は百回を超え ....
01
潜水艦が勝手口から出航する
数名の水夫と
グランドピアノを一台乗せて
裏面にへのへのもへじが書かれた広告は
窓を開ければ
風に飛ぶだろう
02
電話会社から届いた明細を ....
ひとが
しをかいている
ひとは
しをかくのがすき
かいていると
こころが
きれいになる
きぶん
しをかくひとのことを
しじん
というらしい
ちなみに
しにん
とよぶと
....
こうえいの
ぷうるで
しんでいるかのように
ひとが
かんせいをあげている
いきているひとは
ときおりじょうずに
しんだひとの
ものまねをしてみせる
そして
みずのしぶきをみ ....
みちている
ろじょうに
ひと
もしくは
ひとにちかいものの
こえ
が
こうさてんに
まいにちあった
はなは
いつしか
おかれなく
なった
あのひとも
どこかで
は ....
脱税しました
空は晴れていました
脱税したお金で
スポーツカーを買いました
お金が足りないので
模型のスポーツカーでした
海の近くでした
風に匂いがありました
一輪車が得意でした
上 ....
1 2 3 4 5 6 7 8