すべてのおすすめ
届かないと思っていた扉の取っ手は
いつの間にか腰の位置になっていた
背が伸びて視野が広がる
遮っていたものに追いつき追い越し
世界の大きさに少しずつゆびが触れる
もうすっかり ....
大切かどうかわからない記憶は
抱えていた膝小僧のかさぶたにある
転んだのは最近のことだったか
それとも遠い過去のことか
鉄さびのようなすすけた色は
かつて赤い液体であっただろうことを
....
ねずみ色のコンクリートが暗く染まる
何か落としものがあったような気がして
歩いて来た道を右から振り返ってみた
つうつうと機械的に落ちるさみだれ
庭に投げられっぱなしの花切り鋏は
いつから ....
つかまえることの出来ない
角の取れた風が丸く波打つ
花ごと落ちてしまったつつじが
こつ、こつと小石にぶつかり
涼しい上流から泳いできた
花街にいる女性の唇のような
程よく熟した艶の ....
大気は徐々に枝垂れ流れ
紫色に染まってゆく
雑踏は過去のものになり
ほのかな灯りも音を持つ
乱反射していた人工のひかりは
次第に少なくなってくる
大気は更に厚みを増し
地上 ....