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ぼんやりと浮腫んだ月が
夜空の底から覗いていた
見透かしたような月光が
書きかけの溜息を嘲っていた

出かけたっきり帰ってこない
セツナサを待ちあぐねていたら
黙りこくったキーボードを
飼い猫が悠々 ....
<上>

暗中模索のキッチンで
夜食を見つけて意気揚揚
紆余曲折のビール腹
逆三角の栄枯盛衰

横行闊歩の食欲を
抑えられない艱難辛苦
気宇壮大の体脂肪
Gパン入らず苦心惨澹

 ....
氷の粒で描かれた
白い真一文字は
いつかの憧れに
まっすぐ向けられた
誰かの眼差しに似ていた

すぐに解れてしまう
白い真一文字は
いつかの過ちに
未練たらしく絡みついた
誰かの言い訳に似ていた

 ....
コンクリートの谷底に
ぼんやり突っ立って
たくさんの季節と人を
やり過ごしてきたオマエの
歌を聞いた者はいないはずだ
それでもオマエは
歌い続けているらしい

コンクリートの谷底に
ぼんやり突っ立っ ....
見慣れない電車を
何度も乗り継いで

見知らぬ人達に
何度も道を尋ねて

見惚れた造花で
何度も指を切って

見損なった夕焼けを
何度も何度も許して

やっと辿り着いた
近所のコンビニで
アイスクリ ....
目で探りながら
手で解ったふりをする
口で汚しておいて
肩で諦め切れない

そんな浅はかで気紛れな
自分の中の振り子を
ひとときだけ止めて
佇んでみたけれど

森の深い呼吸が
耳の後ろをくすぐるから ....
そんなに
尖ったヤツで
横腹を突っつかれたら
陽気な中身が漏れちゃうじゃないか

暖色の粒子を頭から浴びて
みっともない笑顔になっても
知らないよ
この妄想第二頸椎66Bは
インジェクションブロー成形の
ポリプロピレン製で
UV&抗菌コートが施されています

くたびれた乳白色の外観はもとより
重量感や質感まで
平均的な成人男性の第二 ....
苦笑まじりで
激しくうなずく街路樹

あきらめ顔で
でたらめに踊るビニール袋

恥じらいながら
身をくねらせるのぼり旗

慌てふためいて
路上で死んだふりをする放置自転車

 ....
電線を泣かせるのは
木枯らしだ
冬のからだの
声だ

何も掴めないのは
街路樹だ
冬のからだの
手だ

キシキシと縮こまった
エンジンを震わせて
登り坂を這っているのは
 ....
「晴」


青空の尻尾が眉間を撫でると

開いた眉がくすぐったそうに泳いだ

昨日の薄皮が少しずつ剥がれて

今日の陽光にりるりるとはためいた




「耕」


 ....
君の唇の くれない が
僕の内側を伝い落ちると
日常が育んだなけなしの植物群は
夢見るように朽ちていった

君の爪の くれない が
僕の外側を掻きむしると
日常に着せたつきなみな制服 ....
何度もあなたを殺していた
言えなかった言葉を尖らせたナイフで
いつの間にか覚えてしまった
人格者の微笑をまとったまま

何度もあなたを殺していた
愛憎の糸がこんがらがったロープで
い ....
にごりえの底に潜む
あわぶくが僕なのです
みょうに取り澄ました
ことばが木偶なのです

よどみの中で悶える
あわぶくが僕なのです
おもいを取り逃がした
ことばが癪なのです

こ ....
もうすぐ暗闇の端っこが
綻び始めるから
似たり寄ったりの一日が
また発芽するよ
ここで街が目映く
反転するのを待とう
たぶん大丈夫
取り残されることはないから

もうすぐ緩やかな ....
伝えたくて
伝え切れないもの

捨てたくて
捨て切れないもの

慌てふためいて
掴み損ねたもの

握り締め過ぎて
壊してしまったもの

煩わしいものたちを
もう一度抱き寄 ....
「予」


予め渡されたまっさらな空に

どんな雲を描いたって勝手だけど

思い込みの風力のぶんだけ

天気予報ってはずれるんだよね




「定」


定まった行先 ....
「無」


カラカラの大人を脱いだらギリギリの元気

ギリギリの元気を脱いだらテラテラの苦笑

テラテラの苦笑を脱いだらシワシワの孤独

シワシワの孤独を脱いだら なんにも無い
 ....
「見」


見ているのに見えていない

僕の眼はたいてい当てにならない

1秒先の出口も1cm後ろの奈落さえ

感情の濃霧に包まれたら何も見えない




「嗅」

 ....
「移」


知らぬ間に忍び込んだ次の季節を

昨日より微かに老いた眼差しでやり過ごす

移ろっていく速度のやるせない違いに

胸の奥をさざめかせながら運ばれていく



 ....
井の中の蛙を掌にのせて
珍しそうに眺めながら
「大丈夫だよ」と彼女は
うわのそらでつぶやいた

程好いぬくもりにとろけて
居眠りしていた蛙は
「大丈夫だよ」という言葉を
うっかり「好き ....
ものごころがつく前は
うおごころも
みずごころも
何も分かっていなかった

世界よりも広かった
はだかんぼうの意識

ものごころがついた後は
おんなごころも
したごころも
少 ....
伝え切れない言葉が
君の瞳から溢れ出した

背中から湧き起こる
熱くて塩辛い波に巻かれて
僕は言葉を手放した

伝え切りたい言葉が
君の口元で閃いた

胸の岸辺を抉られたまま
 ....
優しげなまなざしで
君は僕についているタグを探す

僕は僕
誰にも似ていない
決して強くはないけれど
他の誰かに成り済ましていない

はやりの自然体を
君は不自然に着こなして街を ....
君のまあるい心と
僕の角ばった心が
ぶつかった

君は少しへこんで
すぐ元にもどる
僕は角がつぶれたことを
いつまでも気にしている

君のまあるい心と
僕の角ばった心が
はず ....
コンクリートの舗道から
唐突にはみ出してしまった
名も知らぬ草

引き千切られても
踏みにじられても
へらへらと風に揺れている

雑草になりたい

生えることだけを
考えたい
 ....
花は花で
咲き競い
至福の種子を枝に結ぶ

鳥は鳥で
鳴き集い
矢印となって季節を指し示す

川は川で
せめぎ合い
未だ見ぬ海へと殺到する

雲は雲で
逃げ惑い
苦し紛れに ....
キラキラしない雫が
後頭部の歪な曲線を
未練がましく伝い落ちて
塩辛い影を作っている

無頼な陽射しと
馴れ馴れしい湿気に
言い返す言葉もなく
帰り道の上をボトボト歩く

いく ....
昨日と同じ色の朝の
昨日と同じ匂いの時間に
気紛れに買ってしまった
オリーブグリーンの傘を開く
慣れきった慌しさのほとりに
淡い緑色の翳が落ちて
治りきらないささくれの端を ....
ブラックスモーカーの
熱い暗闇のほとりで
スケーリーフットを枕に
わたしは不思議な夢を見た

空っぽの背骨を
滑らかな夜風で満たして
わたしは空に浮かんでいた

手足になり損ねた ....
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