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今月なのは間違い無いのだけど
確か二十日頃だったよね
金木犀の甘い香りは
あのひとの痩せた背中を映し出してくれるようで
ひとたび心離れてしまうと
あれほどに固く結ばれていた思いまで
....
「頑張って!」
と思わず口に出してしまう
それは頑張っている他者への共感であり
ふりかかる火の粉を払おうとする
ある種の逃げ口上とも言い得て
決して自分の事ではないのだから
「それじゃ ....
人間すなおじゃないとね
と
あのひとは言った
あなただって…
と
言い返そうとして
こ
としはまだ蝉の鳴き声を聞いていないことに気付いた
あのガード下へ行けば
聞く
....
今日も一日誰とも話さずに終わってしまう
仕事柄何十本もの電話をこなし
お昼には職場の友だちとランチなんかしたけど
それで誰かと話したってことにはならない
パソコンの電源落として
机のまわ ....
両の人差し指でぱたぱた
ニワトリが餌でも突いているようで
思わず吹き出しそうになるけど
なにやら真剣に打ち込んでいる
あなたの横顔
見方によっては男らしいとも言えそうで
古いやつだ ....
好きとか嫌いとか
そのような感情と同じ速度で
五月の空はわたしのこころを蝕んでゆく
そして陽射しに揺れる葉桜が
散り行く先など知る縁も無いように
他者への憎しみを
こころの襞奥に抱え込 ....
はじめての出逢い
それは父親に肩車されてのこと
ガラスの向う側で
愛らしそうな顔して笹を食べていたっけ
何時でもいるのが当たり前
そんな存在でもあったような気がして
パンダってまた ....
自分で考えてみても些細過ぎる悩み事を
頷きながら聞いてくれる
復縁できたらとか下心あるのかな
彼だった頃は喧嘩ばかりしていたのに
なんだか不思議だよね
今では心を開いて相談できる
同志 ....
ゴスロリっていうのかな
そんなフリルのたくさん付いた服
一度くらい着てみたいけど
「おばさんの癖して…」
あなたに言わてしまいそうだし
そんなの着れる歳じゃないことぐらい判っている
ふ ....
へのへのもへじみたいだねと問いかけたら
「へへののもへじ」が正しいんだと
あのひとは言った
―へのへの
叱られて家に帰れなかった
夕焼け空に
ロウセキで描いた
へのへのもへじ
....
先週末に桜が散ったばかりなのに
あなたは
物置から引っ張り出したビーチパラソル
具合を見たいからと
これ見よがしに拡げてみせる
どうやら使えそうだな
アルミパイプの椅子まで組み立て ....
焼けてきたお肉を器用に裏返してくれる
横の物を縦にもしない性格だと思っていたのに
どうやらそうでも無さそうで
アルコールの度数は低いからと
ビールの飲めない私に勧めてくれた
甘くてとろり ....
ぼっかり空いたこころの隙間に
あなたの優しさが忍び込む
そのひとに騙されているのではと
友達は忠告してくれた
仮にそうであったとしても
構わないと思ってしまうわたしがいる
ひとの弱 ....
なんだかこぎ疲れたから
ちょっと立ち止り休んでみる
無理してこがなくとも良いのだと
あなたは諭してくれたけど
途中でやめるなんてことできなくて
意固地になんかなっていないよ
こぎ続ける ....
誰かの哀しみを拾い上げる
冷たい小糠雨に濡れ
誰かの哀しみは
つぶらな瞳でわたしを見上げたように思えて
この胸に優しく抱きかかえた
歩道橋下の暗がりで拾い上げた
誰かの哀しみは
手の ....
一枚の写真のなかで私
笑っていた
卸したての制服は似合っていないし
表情もなんだかぎこちない
引越しの準備とかで慌しい最中
久しぶりに開いてみた
アルバム
こっちへ出てくるときに母が ....
「ねえ、良いだろ?」
何が良いんだかと思いつつ
とりあえず
あなたの左腕にしがみついてみる
押し付けた胸のふくらみに気づいたらしく
慌てふためく様子が可笑しくて
かまととだとか ....
紫色のくちびるを震わせ
熱いコーヒーで暖を取るわたしに背を向けて
あなたはストーブに薪をくべている
見覚えのあるチェック柄の毛布
あなたの匂いを胸一杯に吸い込んでみた
冬の嵐の去った ....
いくら落ち目のわたしだからって
何でこんな仕事しなきゃいけないのかな
数人のテレビクルーを引き連れて
どれだけ歩いてきたんだろう
雲の上を歩かされるなんて思ってもみなかった
富士山の ....
最初はマジで嫌だった
スタッフのひと替えてもらいたかったけど
お気に入りのお店だったし
いつものひと不幸があって急に休んだらしいし
どうにでもなれって心境だった
助手のひとがわたしの好み ....
自慢話うまいひとって羨ましいな
自分のこと話したくても
つい口ごもったりして
自信が無いだけなのかな
たとえばカラオケに行っても
わたしの番になると
他のひと達世間話なんかはじめた ....
めまいがするほどに単純な設問の数々
「はい」か「いいえ」のいずれかで答えよと記されていた
簡単な筆記試験だからと
人事部のひとはわたしを残し出て行った
小一時間もあれば出来るよね
何だかなあ ....