気の早いひと
恋月 ぴの
先週末に桜が散ったばかりなのに
あなたは
物置から引っ張り出したビーチパラソル
具合を見たいからと
これ見よがしに拡げてみせる
どうやら使えそうだな
アルミパイプの椅子まで組み立てて
こっちへ来いよと手招きする
わたしって猫だけど猫じゃないよ
不安定な椅子に腰掛け何をするでもなく
もっと若い頃ならば
お互いにちょっかいでも出すのだろうけど
人生の瀬戸際間近のふたりだから
取り壊しがはじまった銭湯の傾いだ煙突を眺めても
溜め息ひとつさえ出やしない
どうせまた物置にしまうのでしょ
いや、直ぐにでも使うことになるよ
このパラソルで防ぐのさ
海の向うから飛んでくる黄砂とか
死の灰とか
街宣車のけたたましい騒音
そんなものの総てを
こんなもので防げるのかな
銭湯の傾いだ煙突をかすめるように
ジェット雲幾筋も延びて
まだまだ先のことだと思っている
わたしたちの心に寒の戻りの風が吹く