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鉛筆の匂いをさせて
あなたは春になった
尖った芯が
しだいに丸くなって
やさしくなった
声、かもしれないものを
たくさんスケッチした
知ってる言葉も
知ら ....
と、言って
帰ってきたのが
わたしだとしたら
いったい
わたしは誰なのでしょう
と、考えてみたところで
わたしは
わたししかいない
ただいまのわたしと
おかえりの
....
陸上競技の大会で
入賞した
優勝ではなかったけど
おにぎりが
少し塩辛い気がした
母さんが少し
変わった気がした
僕も
晴れわたる空
というわけではなかったけれど
い ....
しっぽを空へ
ぴーんとのばして
ここにはいない人たちと
話していた
わたしたちには
そんな時代があった
ところがある日
しっぽをのばすどころか
しっぽを持たない
人に出会っ ....
布団の中から
黄色い豆電球を
ぼんやりと見つめてるのが好きだった
とても無機質で物静かな
豆電球と向かい合って
顔のない人と対話してるような
自分の顔をを見つめているような
そ ....
兄さんが帰ってきた
兄さんは
少し自信のなさそうな
顔をしていたけれど
兄さんの声は
あの頃と変わらない
兄さんのままで
兄さんがいないあいだ
僕がどれだけ不良になって
自 ....
あるべきところへ
おさまって
けれど
はみだしたところに
やさしさがある
ほんとうの
うちのつまにも
はみだしたところが
きっとある
ほんとうのやさしさが
うそばかりの ....
そらのどこ
とぼくがたずねると
きみは
そらのとこ
とこたえるのだった
だからぼくはまた
そらのどこよ
とたずねてしまうからきみは
そらのとこよ
とこたえつづける
いつま ....
はじめて会った
日のことを
よくおぼえていない
それくらい
はじめて会ったような
気がしなくて
その日からぼくらは
いつも一緒だった
友だちだった
恋人ではなかった
....
ものごころついたときから
あるもよおしものが
そこでおこなわれていて
開催期間:ひとのきかん
とかかれてあるので
ふしぎにおもい
うけつけのおねえさんに
ひとのきかんとは
....
お見舞いにいくと
ベッドと見まちがえるほど
平らになっていて
痩せていた
祖母と手をにぎりあって
見つめあっていた
帰り際に
手をふった
なるべく笑顔で
いつものように
....
子供の頃の、僕と父の写真を指差して、四歳の息子が、
「お父さんがふたりいる」と笑ってる。
それから、今の僕を指差して「お父さんが、もうひとりいる」と笑ってる。
今度は少し、不思議そうな顔を ....
雪々が
列車の屋根に降り積もると
定刻どおりに発車する
人々が乗る
列車の屋根で
雪々は
いつものあの街まで
会えただろうか
その街で
伝えるべきことは
伝えられただ ....
やさしい眠りが
速度を上げて
朝の向こうへ離陸する
夢の中
街はまだ目を覚まさない
けれども電車は
定刻どおりやってくる
お雑煮を
まだ食べ終えてない人が
白組、白組、 ....
手に触れると
時が止まりました
流れるように
途中なのに
同じ時に終わりました
同じ時にはじまったように
瞼が熱くなったのは
夕日のせいでした
温度もないのに
急降 ....
その人のことを
空さんと呼んでいた
空さんは
だだっ広くどこまでも
青くなったり赤くなったり
涙したりして
人のようだった
空さん
時々丘の上から
呼びかけてみるけれど ....
段差のない
同じような家のならぶ
団地に住む
友人の家に日曜日
遊びに行った
ちょうどお昼ごろだったので
お昼ごはんを
ごちそうになった
手作りの
パンとコロッケと
....
十くらいはなれた
妹に
よく似た娘に
やさしくしてしまう
やさしくした後で
そのうかれた顔は何だと
誰かに言われたわけではないけれど
きっと僕は
そんな顔をしてる
もっ ....
あなたと
ともに死ぬつもりになって
恋をしたい
というときの
あなたとは
あなたなのか
あなた以外なのか
そのどちらでもないのか
わからないまま
あなたと恋をしたい
わたしが ....
約束をした
もうひとりのあなたと
あなたには
内緒で
約束のことを知らない
あなたは
なぜかいつもより
やさしかった
気がした
ひとを裏切ることが
ひとをやさしくして ....
僕らは
指定席とよばれる
ひとりずつ与えられた席にすわって
ときには時速三百キロメートルを超える
レースドライバーのように
ふと孤独の恐怖に気づいたかと思えば
またすぐに慣れてしまっ ....
つめたく湿った朝
目がさめると
屋根から鳥の足音が聞こえる
降り立って
昨夜の戦況を
せわしなく伝えていた
兵士の声は力尽き
衛生兵の途方に暮れた
足音が聞こえる
数匹 ....
こどもの頃
お正月とお盆になると
母の実家に行った
山々にかこまれた盆地に
田んぼが海のように湛えられ
島のように点々と
街や集落が浮かんでいた
遠くに見える
おおきな島に駅 ....
きのうの夜
妻とけんかしたのだ
きっと疲れていた
今日は帰りたくなかった
だから僕は家の前を通りすぎていった
同じ色の
とても小さな家が
線路沿いにつづいてる
青でもなく緑で ....
幸せなときに限って
幸せを知らない
河原のベンチに座りながら
そんな時が誰にでもあるように
思うことがあった
ベンチに座ると
夏の虫が僕のまわりで
いっせいに鳴きはじめるものだ ....
指先から入る
表面張力の
弾力にはじかれて
はじかれるうちに音もなく
入ってゆく
指の骨の
白い洞窟のすきまから
声が降る
あの声もその声も
白く堆積する
カルシウム ....
ひとさし指で手紙を書く
砂のうえに
潮が引くときだけ
ゆるされる
返事が来る
潮が満ちるときだけ
あなたから
光と光の
波にさらわれる
こぼれた文字の
貝殻をひろう
....
そういえば
結婚式しなかったね
ときどき妻が言う
僕は聴こえないふりをする
本当に
妻がそう言ったのか
確証のないまま過ぎてしまう
日々の幻聴のように
出会ってから
十 ....
本家の夜更け
障子のむこうの影を
目で追いながら
人の鼾と鼾を調和させ
命のありかを探すように
それらの影と音は
まだ幼い眠りの夢のように
瞬きを絶やさず生きのびていた
これ ....
それからどうしても
行きたいところがあると言うので
つれていった
寝ているときは
額に汗をかく人だった
まぶたの裏の世界でも
雨が降っていた
誰かの涙なのだろう
誰かがと ....
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