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一。
この街ではつめたくて、誰もが当然のような顔をして、歩いて、いる。ぼくらは他人のふりをするのが得意だから、みんなすぐに誰かに成り切って、誰にも知られない ....
もういいだろう。それ相応の返答はくれてやったし、それ相応の返事も聞いてやった。
だからもう、いいのだろう。いいのだ。もういいのだ。コレデイイノダ。オデカケデスカー ....
弟が、
はじめて天体望遠鏡を買った夜のことは、
今も忘れない。
失われた母星を見ようと、
みんなでベランダに集まって、
家族で覗き合った。
結局、
あたし ....
朝起きると、
夫の蟹を食べる。
水のきれいな土地で生まれ育った夫の蟹は、
沢蟹に似た味がして、
なかなかの珍味である。
蟹は大抵、
夫が寝ている間に、
湧 ....
裏庭で流木を見つけました。
流木なので、
どこからか流れて、
どこからかこの庭に、
流れ着いたのでしょう。
流木はぐっしょり濡れていて、
近づくと強い潮 ....
悪い子は見つからないパパにもママにも見つからないぼくは悪い、
押し入れの中は宇宙だから漂う星たちは涙じゃない。
膝を抱えて星座に ....
教室に戻ると、
机がなくなっていた。
みんなぼくに背中を向けて、
くすくすと笑っている。
すごく笑っている。
いつもの光景。
誰かが振り向いた。
なに ....
妻が子を産んだ。
女の子である。
わたしの子ではない。
山神さまの子だと妻は言う。
山神さまの子は妻に似て、
肌が白い。
むずかると、
白い肌を紅くして泣 ....
不確かな憂鬱が胸を撃つ。
交差点に逃げ場はない。
誰にもだ。
長靴を履いて雨の上を歩く、
いつもこうやって泣いているの。
....
雲は遅刻したけれど青空は遅刻しなかった晴れのち曇り。
曇のカーテン薄いから、
向こうが透けて、
青い影。
ぐうん空魚が、
ほわわわ ....
あだしのくんは、
ときどき冷たくなる。
あたしの隣で眠っていると、
あだしのくんのからだが冷たくなる。
あだしのくんの蒼白い肌が、
さらに蒼く透きとおって ....
ぴょぴょがあふれたら、
もうきせつです。
ばすけっとにつめこんで、
のはらにでおでかけしましょう。
みんなまっていますよ。
さあはやくじゅんびをして、
....
この向こうに、
きみへの窓があると、
そう信じていた夏。
返ってくるはずのない、
手紙を書き続けていた。
....
わたしの余白には言葉を埋めないで、
どうかそのままにしておいて下さい。
あなたが埋める言葉はとても想いので、
ふたりはいつも沈んでしまいます。
句読点のない ....
ぐらぐらと、
煮え立っていた。
ぐらぐらと、
煮え立っていた。
ぐらぐらと、
煮え立っていた。
やかんは、
気が付くと、
空になっておっ ....
「あなたはね。
卵から生まれたの。
それはそれは痛くって、
とっても大変だったのよ。」
それが母の口癖だった。
嬉しいことがあったときも、
悲しいこと ....
こんこんこん。
と、
扉がいったので。
とんとんとん。
と、
返しました。
外に出る。
と、
誰もいませんでした。
....
飛びたくて、飛べなくて、
逃れたくて、逃れられなくて、
おれたちは窓から堕ちてゆく。
毎日と一日と、ありったけの今日。
翼がないおれたちは羽ばたくしかない。
この腕で ....