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黒い道がのびている
静かな{ルビ轍=わだち}が寄りそうように走り
道の上には白い雪が
粉砂糖のようにやさしく降り置いて
灰色の空には切り裂く翼もなく
肌を刺す冷たい空気ばかりが動く
....
日が暮れる
夕空に星が輝いた
大きな月ものぼった
満月だ
タワーに灯りがともった
家々の窓にも
お店のショーウインドウにも
月が追いかけてくる
黒い山の ....
誰も知らない小さな広場に
誰も知らないサーカス、星をかかげて
青いテント 青いテント
少年は見つけた 舞台の上に
真昼の光線のしたたりを浴びて
少女が一人 くるくる回る
風のようなピルエッ ....
ものがたりをしよう
こんな淋しい夜更けには
ものがたりをしよう
青いペアグラスは粉々にくだけ
私の心は深く傷ついた
銀のスプーンを強く噛んで
一人ドアを閉じ貝になる
永遠などない ....
桔梗の匂いです
ほんのりぼかした地平線は
花のうねりが続いています
その上をすべる
乳白色 あおい月
輪郭はまだうすい
夜はさらさら
風はさやさや
月は花の ....
窓を大きく開け放ち
男はそのままの姿勢で倒れこんだ
夜風にカーテンがゆれるだけの
ささやかな部屋
カーテンの色はミントブルーで
男の好きな色なのだった
思い出の中で静かにゆれている
今も ....
朝私が
シーツの海から目覚めると
あなたがおはようと囁く
寝坊しても怒ったりしない
朝食を作ってくれるだろう
でもあなたは
キッチンから戻ってくることはない
夢の中のあなたはやさしい
....
鋭利な湖面をすべってゆく
一艘の小舟
私は黒布で目隠しされたまま
なすすべもなく横たわっている
風 感じるのはすべて風
重い水をかきわけて
舟はゆるやかに進む
盲目の私の世界に響 ....
近づいてゆく
風が乾いた草の匂いをはこんで
近づいてゆく
滅んでゆくものの気配を
怖がらないで足をのばし
サンダルを遠くに飛ばして
近づいてゆく
秋のサテンのやわらかな手触り
私はこの ....
それは朝陽を煌々と浴びる
蜜のような栗毛だったろうか
それとも夜のように流れる黒いたてがみ
そんな事は重要ではないのかも知れない
長いまつげを震わせる一頭の馬が
街角をひっそり駆けてゆく
....
誰も知らないその庭に咲く薔薇
朝一番の雨に濡れた赤い薔薇を求めて
僕はたどり着いた 足をひきずりながら
かぐわしいその香りを嗅げば幸せになると
ただひとつの愛を得られるとずっと信じていた
....
こんな夜、
一人浅い夢から目覚めて
窓外を揺れる葉擦れのざわめきに
わずかに明るむ緩やかな月光に
胸に満ちて来る何ものか
心を澄ますと潮騒の響きに似て
耐えきれなくなる 抑えきれなくなる
....
あなたがいってしまった次の朝
庭の隅に赤いバラを植えました
赤いバラの蕾から
黄色いつばめが飛び出します
私はつばめの背中に乗って
雲の向こうへゆくのです
虹はリボンになって
風 ....
恋をするなら
声の素敵な子猫を飼って
恋しい 恋しいと啼かせます
一人の夜に膝に抱いて
小さな頭をやさしく撫でて
恋をするなら
おろしたての靴を履き
街をあてもなく歩いてみます
....
緑の山に響くのは
わたしの声か 呼子鳥
夏の滴りに濡れそぼち
わたしはわたしを呼んでいる
遠い風に乗り響くのは
わたしの夢か 呼子鳥
それともあのひとのささやきが
わたしの耳もと ....
五月は過ぎた
麗らかで活発だった季節は
あれほど気ままだったお前も
今ではわたしの膝の上で大人しく眠る
お前のやわらかな耳たぶに降る雨に
こうして一緒に濡れそぼりながら
お前は聞い ....
あの緑陰に佇んでみたものは
光るまちだったのか 雲の流れになぞらえ
かすかに形を変えてゆく思いなのか
今はもう分からない黄昏に包まれる
やるせない影ばかりがのびて 路に夕べに
項垂れ ....
蜘蛛の巣──繊細に張りめぐらせたレースの装飾
怖いもの知らずの蝶が飛び込んで
ゆれる ゆれる
蝶の羽も絡まる糸も光っている
ゆるやかな午後の陽に なお光を保ち
街灯に蛾が群れている
明滅する明かり
雲がさあっと横に分かれて
月が顔を出した
誰もいない
蛾がひっそり群れている
角からぽーんと勢いよく
何かが飛び出した
赤いビニー ....
青い
夜明けのような{ルビ苧環=おだまき}の花を行き交い
小さな蜂が羽を震わせている
光は飴色に輪を広げ
触れるたびに緑の葉は揺れ動く
あいさつのように かすかにそっと
....
目を閉じて
そっと目を閉じて欲しいのです
まぶたの裏に感じるものは
やわらかな陽の光り
それとも七色の虹のきらめき
じっとしていると
風のささやきも聞こえるでしょう
あなたの美し ....
ミランダ やさしい亜麻色の髪
青い瞳で微笑みかける
ボッティチェリの絵から抜け出た天使
裸足で草原を歩くのが似合う
ミランダ 白鳥の細い首筋
もうすぐ居なくなると告げた
はかなげな ....
恋しさにとまどう心シクラメン
うつむく頬にそっと紅さし
今もなおあの日の夢にくちづける
クリスマスローズ淡き語らい
冬を恋いうす黄に咲くはわが心
いつ ....