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ひょいと見ると出窓の内側で
そいつはいつものように
出窓に置いてある
真空管式の古いラジオに
じっと耳を傾ける
ビクターの犬のようだが
そいつは黒猫だ

出窓からは朝の港町の風景が広が ....
私という人見知りは
背中にうっすらとした黄金の体毛と
頭部に後光が輝くよう
分け目の間に鏡を置いた
ギミックがすこぶる付きの生物なので
東京近郊の動物園から
引く手数多なのだけれども
 ....
港町の浜辺に面した食堂
浜辺の見える出窓に置かれた
古ボケた大きなラジオから
流れる昔のエレジィは
淋しく悲しい旋律で
波止場につながる道沿いを
黒いショールに包まれた
港のおカマの頭上 ....
そいつは僕の眼をじっと見つめ
/媚を売るでも無く
/何か一言言って僕の歩く先を
先回りしてしっぽを立ててステップを踏む
/石畳の路地は濡れて光っており
/黄色く彩色された建物の壁面に囲まれ、 ....
歩いている。
あてもなく歩いている。
すっからかんの着のみ着のままで
歩いている。

足下には星屑が輝き
頭上には異様に大きな月が
幾つものクレーターを見せて
垂れ下がっている。

 ....
山奥の名所旧跡の傍ら
誇りを失ったゲージの中の鳶
胡乱な眼で見物人を眺める
その眷属と同じ記憶を追いながら



丘を越えて吹いてくるそよ風
丘を覆い尽くした向日葵は
風にそよいで小 ....
夜が辺(あた)りの色を奪うとき
灰色の濃淡だけの風景の中
独り佇み窓の外
悲しみだけの夜道を歩き
とぼとぼ何処へか歩き出し、

夜が心も奪うとき
沈む気持ちのその先に
灯りがぼーっと点 ....
たった一つの言葉が言いたくて
書き始めた詩が
僕の手を離れて宙に浮かぶ

こんな筈では無かったと
何回も書き足して
つなぎ止めようとしたが
ますます詩は僕の部屋中に拡散し
言いたかった ....
跡形もなく過ぎ去った過去は
過去の栄光ではなく日常のホームドラマで
思いやりのある家族とお節介な隣人
歴史好きの親父とミーハーな娘
東京に行きたくて
髪の毛を染めたキャサリン
着ている ....
 歩き始めの段階、道は同じ眺めのため選択間違いはよくあるのですが、間違いだと気づいても引き返す勇気がないため、どんどん先へ行ってますます道に迷ってしまうことがあります。特に最初選択した道が平坦で歩きや .... 冬の凍てつく青空に
大きな大きな梯子掛け
雲一つ無い寂しい青空に
大きな大きな梯子を掛けて

与太郎 騒ぐは 梯子の終わり
とおく空には届かない。
梯子のてっぺん 高いとこ
それでも真 ....
遮光レンズ越しの
淡い背景が
拡散する持ち時間を
しばし彩る
グラデュエーション
緑色のかみ人形の林立に
研ぎ澄まされた
ペーパーナイフの
握り締めた刃先の赤
指の間の憂鬱な黒い ....
黒猫は廊下に佇んで、
じっとこちらを観ている。

部屋の中にいても落ち着かない
餌をくれてもあまり食べない

探し回る 探し回る
自分の目が開く前から
抱いてくれた母親を

不 ....
今日の終わりの夕暮れに
街は開店前の呑み屋のようで
ぽっぽっ ぽっぽっと
灯が灯る

昌平橋から見上げる高架
縄のれんのような柳の木
ぽーっと灯る提灯脇に
昭和の夕暮れ 宵の口

 ....
僕は今両手を差し出して
広い大きな空を掴もうとしている
それがとても滑稽に見えても
そうしなければ
自分が消えてしまいそうな気がして

僕は今両腕を空に向かって突き上げ
広い大きな空に飛 ....
臨月でお腹の大きい妻が呼んでいる。
僕はいつもの公園で二日酔いの頭を抱えながら、
三歳の息子と遊んでいる。

繰り返し繰り返し
同じ砂山を作っては壊し作っては壊し、
何回作っても彼の作 ....
蒸気機関車の車窓から
景色が後方へ飛んで行く
山は碧から朱に変わっており、
山肌には不気味な道が這い回る。

しゅっしゅらしゅっしゅっしゅ
しゅっしゅらしゅっしゅしゅっしゅらしゅっしゅ
 ....
真冬の寒い日
葉がすべて落ちて
魚の骨が起立する
銀杏並木の坂を
ゆったりと降りて行く

僕は何の理由か気づかずに
気づかないまま
躓いてしまった
小石一つ無い道だったはずなのに
 ....
(暗転)

して突然明るくなった部屋には
一体の死体
もちろん部屋には内側から鍵が掛かっており
完全密室殺人事件

窓枠の中の夜空には
取って付けた様な満月
(なぜ夜なのだ)
 ....
かんかんかんかん
かんかんかんかん
赤い光の警報機
降りる遮断機の
その先は
急行電車が
飛んで行く。

かんかん手を振る
二歳の子
電車を見ながら笑っている
夕日はとっくに夢の ....
開け放たれた窓からは
初夏の高台から望む
雨上がりの小さな街が一望出来る。

マッチ箱のような小さな家には
色とりどりの屋根が
張り絵のように
斜面にへばり付いている。

空は真っ青 ....
君は風船だ
空高く昇って行くのだ
目一杯膨らんで昇って行くのだ
しかし、
パチンと割れたらもうおしまい
だが
君は空の高さを思うのだ
内なる圧力を思うのだ。

僕はポンプだ
君を目 ....
 立ち去る君にかける言葉も無く、
立ちつくす僕は一匹の蛙だ
やっと啓蟄になったのに
気が付いた時に
桜の蕾はパンパンに膨らんで
僕らの別れを祝うように
枝は軋んでいた。

僕が声をかけ ....
   
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明るい陽光を浴びて
僕の黒猫は
幸せそうに膨らんだ
黒い鞠となって
朝から眠り込んでいる

彼女の黒い体毛は
朝の陽光を吸い込んで
幸せ一杯に膨らんで
 ....
ニコライ堂の鐘楼に
大きな黒い月が重なって見える夜
空気は鋭角の厳しさをもって
僕を立ち位置から取り除こうと
鈍くて黒い月光りが刺す。

ニコライ堂の裏を降りて行く坂の途中で
首の長 ....
雪や氷柱(つらら)や霜柱
たくさん積んだ荷馬車を曳いて
二月の親父がやってくる。

その音聞こえぬ ふりをして
年が変わったと大騒ぎ
嫌なこと できれば忘れよう
初めの一〇日は騒いでいる ....
生まれた季節は冬の冬
 年の最後のどん詰まり
 暮れ行く年の落し胤
 雪もはらはら降るような

生まれた街は底の街
 上の街のとなり街
 違っているのは人の色
 違っているのは家の ....
大きな夕日の線状に放射される
赤い光線の先に
黒いシルエットに変わるまばらな家並みが
山並みにより既に陰っている
表面のうねっている畑の中にあった。

その中を疾走する人影一つ
帰るので ....
ぬめぬめとした
自分を抱き締めた。
皮膚呼吸をしているはずなのだが、
何かを塗りたくてたまらない。

空には暗いグラデエーションの夕暮れ
丘に登って見上げている僕は
ぬめぬめとした
 ....
鬱蒼とした樹木の間から
黒い月が煌々と光る
青い空が見える。

しかし、決して昼間ではない。
ここで飛ぶ鳥は梟であるし、
地面には野鼠どもが
異様に光る目をこちらに向けている。

自 ....
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