ニコライ堂の鐘楼に
……とある蛙


ニコライ堂の鐘楼に
大きな黒い月が重なって見える夜
空気は鋭角の厳しさをもって
僕を立ち位置から取り除こうと
鈍くて黒い月光りが刺す。

ニコライ堂の裏を降りて行く坂の途中で
首の長いラマのような動物が歩いている。
胴体は黄色地に茶色の縞が縦に入っている。
足元は焦茶色だが膝から下の毛
顔は駱駝、表情は小馬鹿にした顔

首を伸ばしこちらが側に顔だけ向けて
ニーッと剥き出しの歯茎を見せ
月明かりの中 ゆったりと
横断歩道を渡って行く

相変わらず坂を下ろうとするが
道の反対側のビルには
平べったい顔をしたブロンズの梟が1羽
ほーほーと低く鳴いている。

先を急ごうとするが
ほーほーが次第に高くなり
何百羽という梟たちが
ビルの屋上から
ビルの入り口の上から
ビルの柱の間から
現れ、こちらに向かって騒いでいる。

ほーほーほー
ぱたぱたぱた
ほーほーほー
ぱたぱたぱた
ほーほーほー
ぱたぱたぱた

こいつら笑っていやがる

ほーほーほー
ぱたぱたぱた
ほーほーほー
ぱたぱたぱた
ほーほーほー
ぱたぱたぱた

坂の下の交差点では
靖国社から村田式や三〇式や三八式の
歩兵銃を抱えたぼろぼろの隊列が
粛々と岩本町方向に歩いて行く。

交差点は歪んだまま
時間の隙間をぱっくりと開けて
皇居前広場を映している。

そこには
東京とは思えない
ポッカリとした空間が広がっていた。
皇居前の松の枝ぶりの先に
鈍く輝く黒い月

時間の隙間に落ちないよう
慎重に横断歩道を渡って
仕事場へ行く

行くしか無いので
明日も明後日もこのまま坂を下りて行く。

この辺りの道には首の長いあれが
ビルには梟が多い。
しかもみなブロンズで出来ている。


自由詩 ニコライ堂の鐘楼に Copyright ……とある蛙 2010-01-20 10:09:20
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