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(父、父、お父さん、と泣く声が聞こえるがあれは誰の声であろう)
(息子か、ならば過去からの声か)
(父か、ならば冥界の声か)
父は失踪をくわだてた
湿地帯の臭気が漂う家族から
父の体臭が漂う ....
墓地へ駆けてゆく
姉を二階の窓から見た
学校の制服を隠したのを
姉の埃臭い制服
血の付いた便器にしゃがんだ
汗のにじむ掌で鈍く赤い
姉の隠し持つ勾玉
汗のにじむ掌で鈍く赤い
血の付いた ....
兄は無口になる
暗さが増してくるこの頃
筋肉を持て余し
内部の膨張を持て余し
彼岸花の咲く川縁は
自転車を押して入る
鷺が落ちるように飛ぶ濡れた地帯
自転車を押して入る
彼岸花の咲く川 ....
?.
逃げる父
母は捨てた
兄は堕ちた
姉は隠した
子どもは愛されている?
?.
高い水草の生える湿地帯で生まれた男や女は
高い水草の生える湿地帯で外を向いて車座になった
....
海を埋め尽くす無数の海獣
それらの移動に
海は慄き
激しく毛羽立つ
逆巻く海鳥の交尾
海獣の胴震いに振り落とされもせず
雌鳥は厚い皮膚の皺の狭間に産卵する
そして独身ものは空中を埋め ....
雪崩 老樹 飲みこみ 夜となる
日々凍る おのが命や 鉈一つ
右の手に 乗るはずの独楽 くうへ逸れ
炎をば 凍らすと言う 痴れ者は
荊棘(ばら)を摘む掌のなかにだけ朝はある
そのまへの夜そのあとの夜
*
駆けている 少女は服をぬぎすてる
むねにはことば あしあとはきへる
*
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