人はみな詩人である
言葉を操る才をもち
その感情を記号化する
その文字は伝達に止まらず
心と心を伝えあい
いつしか人に詩が生まれる
人はみな画家である
色を操る術をもち
その感性を ....
まんじりとしない夜
通せんぼの猫が神社の境内に寝ている
求めても求めても届かない愛のドラマ
いつまで経っても
いつまで待っても
届かない
それでも恵まれているのだろう ....
引っ越したアパートは
薬屋の二階だった
辺りには小さな商店しかなかったが
近くに大きな川が流れていて
君の心を支えながら
よく土手を歩いた
神社には大きな桜の樹があって
薄紅の季節を ....
朝顔の 浴衣着せられ すましても
{ルビ囃子=はやし}の誘いに 鳥のはばたき
色具合 綺麗じゃないかと なだめても
姉のお古に チョーさん唇
何故わかる 金魚の匂い ぐいぐいと
群れ ....
お帰りですか、と
聞くとその{ルビ女=ひと}は
ええ、と
小さく頷いて
穏やかな微笑をうかべた
鬱蒼と茂る緑葉の下で
木洩れ日が描くまだら模様が
白い肌をよけいに引き立たせ
蝉しぐ ....
冷たい消毒槽は
三歩で渡ると決めていた
プールサイドの足跡が
しゅわしゅわと、夏にしみこむ
浅黒い肌の散らばる奥に
見え隠れする
白い朝顔
先生の御子だという
なるほど、鼻筋はそっ ....
わたしがサミーラと知り合ったのは
見知らぬ国への好奇心と
ちょっとした向学心
辞書を引き引き書いた拙い手紙を
赤と青の縁飾りも可愛い封筒に入れて
生まれてはじめての海外文通
切手一枚でつな ....
太陽が沈んで昼が終わるっていうことは
月が昇って夜が始まるっていうこと
今日が終わるっていうことは
今日が始まるっていうこと
そうやって
最後と最初は一緒にやってきて
....
腹に響くエイサーの
どごん どごん
飛び跳ねる常夏リズム
どどごん、かつ、かつ
手踊りが咲き
歯は白く輝き
乾いた{ルビ三線=さんしん}の{ルビ音=ね}が走り出す
空を切り裂く指 ....
押入れの中で目覚めると
いつものように優しくなってる
手も足もおもいっきり伸ばして
指先の細かい部品までもが
思いやりに溢れている
感謝の言葉は誰に対しても
正確に発することができ ....
あなた、アオウミガメの背中を
匂ったことはあって?
少女は
さして、答えを求めるふうでもなく
空と海の継ぎめを見つめたまま
潮風にふくらんだ髪を
そっと抑える
....
どうしても捨てられないものがある
幼い頃母に買って貰った運動靴
靴入れの奥に今も大切にしまってある
いつかあなたもシンデレラになるのかなと
七歳の誕生日に買ってくれた運動靴
そういえばこの季 ....
こんなに青いくらい透き通る空に
太陽がぽっかりと大口を開けてる
黄色い長靴も
黄色い傘も
黄色いワッペンも
黄色いレインコートも
みんな黄色いヒマワリにして
眩し ....
梅雨は、いつの間にか居なくなってた。
晴れた午後、自転車をこいでた。
天気雨が過ぎ去って。
夏が来てた。
(でっかいのが、死んだ。)
風殺すようないかり肩に丸刈りの白髪頭乗せて来るのは あれは
ロブス 漁師で 工房の隣の教会の管理人だ
逆光でも分かる お調子者の いつものいたずら ....
どんな蝶でも蜜を求める花に
好き嫌いがあるように
あなたの望む花と
わたしのなりたい花には
どうしても相容れないものが
あるのかも知れない
たとえば地味目なおんなのひとがいて
百人のおと ....
肩落として服でも選んでいるとき
迷信信じて 鏡割れぬとき
また私は 誰かの目線を頼ろうと
あふれる色の声を かき混ぜて
バケツを逆さにして
私の時間が止まる
居留守のドアと
逆さ ....
確かに泣きながら
彼女は確かに声を押し殺し
誰にも気づかれないかと怯えながら泣いていた
薄い壁の向こう側で彼女の淡い恋が砕け散ったのだ
本当に可愛く綺麗になったと
それがある日
....
ひとたびの雷鳴を合図に
夏は堰を切って
日向にまばゆく流れ込む
其処ここの屋根は銀灰色に眩しく反射して
昨日まで主役だった紫陽花は
向日葵の待ちわびていた陽射しに
少しずつ紫を忘れる
....
夏少年の、硝子の{ルビ背=せな}に
せせらぐ
ピアニシモ
白い{ルビ喉=のど}の、滑るシトラスに
透けてゆく
アダージョ
戸惑う爪先の、細い苦悶
ふるえてゆく
アレグロ
....
{引用=一、くじらヶ丘
口に出してごらん
うるおい、と
その
やわらかな響きは
途方もなくひろい海の
すみからすみまで
満ち満ちてゆくようなものではない
干 ....
僕たち
頼りなくも
この小さな灯りで
明日の方向くらいわかる
いつだって
踏み出す一歩は
小さなものでしかない
続く指針が
結果的に幅を描いて
そっと広がる
ランドスケープ
海を見たことがなかった
見え隠れする光
あれがそうだ、と無骨な指で示された海は
たいして青くなかった、が
軽トラックが、ギシギシとカーブを曲がるたび
輝きを探して、車窓にしがみついた
....
青い青いテニスコートの結び目が
ほどける
1セット
2セット
3セット
スパン・・・ スパン・・・
と空気を切る音
その断面はゼリーのようにゆる ....
君は泣く
ときにさめざめと
ときにしくしくと
ときにはげしくも
僕は泣く
ときに声を上げず
ときに涙も流さず
ときに音もたてず
心が泣く
....
なつは名のみのあめばかり
紫陽花は爛漫に咲きほこり
つゆの雫をぽとり、ぽとり
樹々の緑も色濃く、ゆるり
夏はまだだと雨降り積もり
自分勝手な魂を持って
波打ち際を歩きます
自分勝手な魂に
潮風が沁みてゆきます
自分勝手な魂は
都会が怖くて逃げ出しまして
自分勝手な魂に
希望は遠く彼方にしかないように思え ....
大きなガラス扉
日焼けしたブラインド
貸店舗、の白い貼り紙
コンビニになりきれなかった
角の、たなか屋
殺風景な店先のコンクリートには
ただひとつ
小さな郵便ポストが生えたまま
舌 ....
君の目が 向こうを見るその隙に そっと贈ろう{ルビ無音=くちぱく}の「好き」
千代紙こうてくれへん?
匂い付きのやつやで。
嗅ぐと、鼻の奥んとこが、ジーンとなんねん。
何や懐かしいこと、思い出せそうで、思いだせへん
あわーい陶酔があんねん。
千代紙には。
何でやろ、 ....
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