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あいが死ぬ
また
そこで
あそこで
小さな息はいて
誰にも見えないから
簡単に
あいが
しぬ
息を吸って
大声で泣いて
....
(ヴァンサン)
窓の外に君の姿が見える
やわらかい草を裸の足裏で踏みしめて
君はこれから川へ泳ぎに行くという
もう透き通った水は冷たいというのに
君は白い歯を見せて
{ルビ銀葉=ぎ ....
日射病の前頭葉をハンカチで拭いながら
反り返ったガザミの匂い縫い込んだサラリーマンが垂らす竿の
その先280km一日遅れで新聞を読む人々の住む孤島から
おいこらせとやってくる老婆の背 ....
白い春の夕暮れ
浅い眩暈が意識を通過する
柔らかな距離がゆるやかに傾き
西に沈む誰かの声 遠い声
傍らの抽斗の中で
淡い儀式の記憶が疼く
それはやはりある春の夕暮れの
古い棟のうらさ ....
花が好きだったばあちゃんに
花を摘んで帰ると
十日に九日は叱られる
「野に咲いとうのが{ルビ美=うつくー}しかと」
だから摘んで来なさんなと
ばあちゃんの手のひらはまめだらけ
ばあ ....
風が、終わり
雨が、終わったときに
はら、と
静かなる宙を濡らす、桜の
一枚
また、一枚、の
美しい震えの方法を
耳打ちされたおんなが
ふと、拭えば
桜で濡れた指先
....
お墓参りにゆきました
桜のはなびらがさらさらと舞っているというのに
遠くセミの声が耳鳴りのように響いていたのでした
地面は漆黒の闇に覆われ
桜のまわりだけが白く孔があいたように
吸 ....
淡いピンクのチューリップがいけられた
硝子の花瓶のそばに
罅の入った銀色の金属製の心臓が
取り外されて置いてあった
彼はその代わりに
肋骨の中に脈動変光星をひとつ
納めようとしていた
昨 ....
その日も、少年(予定)は、間違えた言葉をそのままに口にする
変換の仕方も削除の方法も、最後には気付けないことばかりなので
いつまでも、「あ」と「い」が上手く発音できない
それでもいいか、なんて思 ....
秋になっても
ずっと忘れそびれていた少年を
冬へ、冬へと
ぽろぽろ棄てるころ
秋だったのに
冬へ、冬へと
粗樫の木から少年の証拠が
呆気なく消えるころ
....
そのはじまりからすでに
鋭く亡びに縁取られているのが夏で
青空と陽射しがどれほどあかるくても
そのあかるささえ不穏なのが夏で
蝉が鳴き騒いでも
祭の喧噪が渦巻いても
濃密な静寂が深々と ....
桃いろをうつす銀 青をうつす銀
たちどころにいりまじり 夢心地
息づく闇の何処かで
黒髪の 解かれる気配
ほのかに 立ちまようのは
知らない花の香と
やわらかな水の ....