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八月の背中を歩いていると
目の前で空気が寝返りをうち
その色にその場に立ちすくむ
秋のそばの道を歩いていると
水のようで水でないものが
いくつもむこうからやって ....
枝から枝へ
したたる雨のむこうに
遠く島が浮かんでいる
曇が海をすぎてゆく
光が枝を照らしている
雨はひと粒ずつ消えてゆく
ゆっくりと目覚めるひとを見つめること ....
光したたる場所に立ち
足元にまとわりつく魚を見ている
緑が照らす灰の息
耳のすぐそばにいる雨雲
肩に沿って
光はこぼれ
水に落ちて
声に変わる
たどりつけ
たどりつく ....
風のなか
ひらかれる本
ひらかれつづけ
とけてゆく文字
とけてゆく頁
「死にかけた鳥を
藪の根元に置いた
雨を避けられるよう
鴉を避けられるよう
湿った土の上に置い ....
午後三時の道の上
薄目を開けて寝そべっている
おまえの見る夢は多すぎて
電車がすぎても目覚めない
食い散らかして 蹴飛ばされ
胸も腹も治らない
同じ道 ....
人のなかに 波のなかに
言葉を放ち
よろこびもしあわせも捨てようとしている
見知らぬ雨 見知らぬ路
見知らぬ緑
石にはね返る言葉を見つめていた
誰もが居るのに 誰も見えない
....
光のなかで光を引きずる
あちこち折れた羽のように
増えては
増えては 軽くなる
はばたきに似た歩みの音
灰のにおい
羽のにおい
いつのまにかひとりの道
鈴の音
陽 ....
時間が
外から来る光を
横になりながら見つめている
花は雪
雪は花
晴れた日
道は海へつづく
ずっと空のままでいる川
とどろきの向かうほうへ
雪は昇り
落 ....
午後に消える鳥の声
冷えてゆく街の鉄の音
夜の波 海の嶺
黒い光のなかの
座することのない独つの星
風の名も
静けさの名も知らず
滅んだ国と
けだものの国の間をさ ....
窓のそばでかさをひらくと
ともだちの声が聞こえないので
仕方なくかさを持ったまま
くちびるの動きを見つめている
青かったかさ
今はむらさき
何かがすさすさ動いてい ....
かつてここには声があり
雨とともに舞っていた
あつまる小さな手のように
はじきはじかれ まわる歌
緑の雨に声は飛び去り
雨の緑に見えなくなった
水は煙る手になった ....
ずっとずっと まわりで
小さな音が鳴り止まない
バスから降りて バスに乗る
またバスから降りて またバスに乗る
いつのまにか隣に
歌がふたつ 座っている
小さな支えを失っ ....
朝の影がのびてゆく
誰かが手放した
結晶のかたちをした風船が
小さな鳥たちに囲まれ
森のほうへと流れてゆく
町をかがやかせる
なめらかな人工
昼から夜へと動 ....
青空にゆるりと重なりひらく
細く淡い爪がある
遠く静かに狭まる道が
枯木に白く持ち去られてゆく
雲の速さに持ち去られてゆく
朝に散る虹
ふちどる碧
瀬に映る音
鐘 ....
道端で
ガードレールを呑み込んで
冬の蛇が死んでいた
白く 汚く
冷たく 硬く
すべてに背中を向けていた
ひとりの少女が泣きながら
蛇の頭を撫でていた
私は言っ ....
川の水と
海の水が
からだのなかで
縞模様に重なり
相容れるようでいて
相容れることのない
ふたつの双葉になってゆく
ゆらめく二枚の絵の前に立ち
ゆらめく水から来 ....
そのままの静かな脚の間から
見える色は枯葉だった
風と風ではないものの境に
あなたは立っていた
空き地に囲まれた家が
はじめて舞うもののようにふるえてい ....