陽子は、すっと敷居をまたぎ
玄関を通りぬけ門をくぐり
香気ある光の朝にあいさつをした
罪とはいつか
姿なく大地に影をおとすような
色なく野原に咲きほこるような
清々しい朝日 ....
足りなかった言葉を
埋めるものが見当たらない
思い出を引き合いに出しても
それはもう終わって閉まった言葉
いつか折れてしまった
あの桜の木の枝が
足りない、足りないと 泣いている
....
空は 晴れて
緑が 萌えて
鳥は 唄う
どうしようもなく
春で
朝で
まぶしくて
どうしようもなく
私は
女で
せつなくて
風が「る」のような ....
臆病で、淋しがり屋の、
貴方はうさぎ
差し伸べられたその手を
只温もりと信じたのか
冷たい土に残骸のみを残し
魂の消え去る事さえ
予想だにせず
血の通わぬその手を
安らぎと感じ身を委ね ....
何か云いた気な空を雲が覆った。
幾千の種が入り乱れた末、
些少ながら遂には人を喰う世界まで確立される。
?独り?
薄汚れた私は美味しいですか?
きっと廃棄される為
産み落とされた埋 ....
その夜 女神が降りてきて
真実を映す鏡だと言うから、覗き込んでギョッとした
これは私ではないと訴えたら 女神は笑う
皮膚が剥がれているのは
上っツラだけ善く見せようとしていた所 ....
ねえ、ブランシュ、
あのとき
あなたが越えようとしていたものがなんだったか
今のわたしにはもう
それを知る手だてもないけれど
あなたはいつも わたしの
理解の範疇をこえて
日常のただしさ ....
油染みだらけの記憶のわら半紙提出期限をとうに過ぎ去り
透明なグラスの底を目にあててきみの星座を見る白昼夢
あの夏にきみが投じた問いかけのこたえをさがす 波のまにまに ....
春が
はるが
傘の水滴に溶けて
声も密やに
幼いまるみの春の子に
子守唄を聴かせる
まだ固く木肌の一部の様子で
繚乱、を隠した蕾は
雨にまどろみ
陽射しに背 ....
息を
わたしたちは潜めて
東の空の彼方から
春がやって来るのを
待ち侘びていた
夜明けに
うすい紫の風が
わたしたちの
頭の上を撫でながら
通り抜けてゆくとき ....
冷たさが
この幸いを閉じ込める
すぐに消える雪片に
まじってもつきささる声
それは
あなたのことよ
鍵を持つ
右の手の指がかじかんで
それでもこれを落とそうとしない
....
***
覚えている中で一番古いのは、あの頃のこと。
あの人は確かにいたのだ、私の腕の中に。
美しい娘だった。白亜の城に住む、姫君。二十歳になったら国を継ぎ、女王として世を治めることを ....
傘を
返してほしい
名残りの雪は
綿のコートには冷たすぎて
ひとりで帰れる自信がないから
あの桜もようの紅い傘は
ほんとうはすこし空々しいから
好きではないのだけれど
....
忘れたいって
あなたが言うから
そうだよねって
私は言うけど
あなたが
忘れきれないくらい
有名になれたらいい、と
私は
少しだけ思う
そうしたら
あなたは少し
後悔 ....
透きとおる真昼に
日常が、消えていく
八月に買った青いびいどろは
もう割れた
観覧車に乗りたいと言ったのは
あのひとのほうだった
てっぺんに着いても
世界はちっとも見えなくて ....
またその話か…。
正直、私はうんざりする。何度同じことを言わせるんだこの人は…。私は、兄と一緒にほぼ絶望的な説得を続けていた。
私たちの言いたいことはひどく単純だ。足を悪くしたその人に、こ ....
もしも許されないなら
この瞳を抉り出して捧げますから
貴方の薬指を飾る石にしてください
蝕まれてゆくのはいつも正常な意識ばかりで
何かを伝えようとするたびに奥歯が軋んで
上手く ....
ぴちゃぴちゃと
水の跳ねる音がして
君が
夜に頷いて
時間
我慢した方が
いいけど
月が
助手席で
背中を折って
ぴちゃぴちゃと
水の跳ねる音がして ....
ひどく寂しそうな顔をして
いったいどこを見ているの?
私も君の視線を辿れば
同じものを見ることが出来るのかな?
近づきたい
そんな気持ちが
大きくなって
君と同じ所に
立とうと ....
移り行く季節
変わらない君の笑顔
どこかに置き忘れた
金色の鍵一つ
開けられないドアの
中にある笑顔
取り戻すことは
二度とない想い
繰り返す日々に
逃げ出したものの
独り ....
大好きだったあなた
まだまだ幼い恋心だったけど
ずっと忘れられないひとになるって知っていた。
片思いだから愛じゃないっていわれても
それでも愛してた
大好きだったあなた ....
夜は夜のままで、かたち通りに息づいていく
少しだけ回る酔いの、世界の
窓枠から月明かりが零れる
思うままに影の、区切られて
深くなっていく宵の
眠れないと、嘘をついた
流れはそこから、 ....
流されていく言葉の端にも
空の順列が
少しずつ結び付き始めている
この街にも人は零れていて
青でいっぱいになって、いつか身動きがとれなくなる
沈んでいけるのなら
そこに沈み込みたい
....
昔、あなたに宛てて書いた手紙
あなたが受け取らなかったので
まだ手元に残っている
手渡そうとすると
あなたは決まって困った顔をしたから
わたしは何故なのだろう ....
塾の講師なんて仕事をしていると
子供の心に触れてしまうことがある
前に受け持っていた女子生徒が
授業中に突然飛び出して
二階のベランダから飛び降りようとした
「死んでやるー!」と何度 ....
花を買いました
家でその花に火を点けました
花は死にました
おもちゃを買いました
姪にあげるつもりで買いました
家でそのおもちゃを捨てました
僕の命を買いませんか
僕と同じこ ....
5時間
眠ればあした
精神は
持つだろうか
この気持ちは
開き直りの
向こう側を
見渡す
女は
友達という安心が欲しいらしい
安定が余裕を生む
その顔が
証拠
大きな傘の下に ....
職場の後輩が結婚退職することになって、送別会に出かける。そこまで近い関係じゃなくて、しぐさとか笑顔とか、感じいいなあって思ってた人。そうかーよかったね。
だけどそんな感慨はもはや思いっきりマイナ ....
規則的に並んだ 長方形の、
石の上に横たわる
やわらかな、暗室
腕をまっすぐ 前に伸ばして
星座の距離をはかる
おや指とひとさし指で足りるほどの
遠さで
わたしを見下ろしている
....
鱗粉を撒く蝶々を姉が追い
便りもとうに絶え果てて、二月
珈琲の苦さも世界のおしまいも二月の書棚に封印されて
死してなほ国歌と定めし
{ルビ売女=ばいた}をば二月の空に弔う君が代
....
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