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おしまいは
呆気ないね
今しがたまで注いでいた目線を
手元のカップに移して
囁くようにあなたが嘆いた
続けてのため息は
ほんのり紅茶の匂いで
外には
すぐそこに夜がある
北西 ....
しんと静まる部屋の片隅
迷い込んだ虫の声
リリリと鳴くは鈴虫か
秋の気配が深まりつ
冷気が足先に絡まって
空を切る目に
眠気はちっとも訪れない
天上を柵に見立てて
ひつじを数え ....
彼岸の頃になると
その場所は
真赤に燃えるようでありました
急な勾配の細い畦を上れば
今来た道を遠くまで
見渡すことのできる墓所
形を成さない朽ちた石版と
名も読めぬほど苔むした石碑 ....
曇った空の下では
海も鈍い色をしていた
打ち寄せる波の先だけは白く
足元に届けられて
よーく目を凝らして見てごらん
水平線が弧を描いている
停留しているタンカーが遥か沖のほうで
....
はじまりは
突然ではなくて
地面に染み込んでいく
雨の速さに似ている
背後に潜む
稲妻と雷鳴の予感
と、その準備に追われる頃
夏の気配はすでに
私の踵を浮かせ始めていた
色濃 ....
黄昏が
哀しみの手をひいて
波打ち際へと運ぶ
きらきらと
波間に揺れるものを
幾度つかまえようと
泡と消えていくそれは
知るはずのない「永遠」
時計の針を止めても
季節は巡り ....
まどろんだまま
深く吸った息で
体中に雨が透る
窓辺においた手紙が
濡れているのは雨のせい
滲んだ青いインクの
消えかけた名前を呼んで
雨の一粒一粒が
体の中で弾ける
ソ ....
買い手のつかぬまま
何年か空き地だったお隣に
店舗兼アパートが建った
店舗といっても
コインランドリーのせいか
雨の日以外は閑散としている
アパートもまだ空いたままで
梅雨明けのあとは
....
青々と
広がる蓮葉には
明け方の雨の
ひとつぶ、ふたつぶ
みつぶ、よつぶが
それは見事な玉を作り
ころころと
風にゆれながら
まるで生まれたての
宝石のよう
真っすぐのびた
....
肌の全部が
湿った薄い膜で被われて
少しの息苦しさで
満ちている午後
畳の跡がついてしまうかしら
そう思いながらも
まるで猫の昼寝の如く
時折どこからか吹いてくる風で
意識を保って ....
それは
降りしきる雨の
隙間をぬって
遅れて届けられた
一通の手紙のように
雨と雨が
触れあう音に紛れて
見慣れた景色の
匂いの片隅
未送信のまま
閉じられ ....
物語の終えた本を
閉じると同時に
欠伸をひとつ
いつの間にか外は雨
こんなに近く
ガラスを滑る雨に
今更気づいて
覗いてみたのは
深い夜
明けること
わかっていても
朝はまだ ....
静けさに
包まれて夜は
雨はとどまっても
星はみえない梅雨の空
肌の湿りは
空が落とした夏の皮膜
それとも重ねた体温
外灯が滲んで見える
青く蒼々と
今を映すその目に
私の ....
地面に伸びた影を
ただひたすらに
追いかける
僕らはあの日
自由だった
悪戯な
きみの笑い声が
背中をくすぐって
僕のなかにあったのは
「現在」という時間だけ
確かにあの時 ....
石垣に肩を預けて戯れは
我が身を石に初夏の景色に
それは‥
季節で言えば
今頃の
濃さを増す
木々の緑も鮮やかに
天気で言えば
曇天とも
雨天とも
言えるような
....
夏にまだ
無防備な肌を
焦がして太陽は
隆起する分厚い雲に
たちまち覆われた
焼けたアスファルトに
水玉の模様を描き始めた
大粒の雨
それもまた
激しさを持て余し
にわかの ....
久しぶりに良く晴れた朝
緩やかなカーブを描く坂道をゆく
気がつけば
坂の中腹あたりだろうか
どれくらい来たのだろう
振り返った後に
始まりはもう見えない
けれど確かな軌跡
....
北の郷にも
春は来て
紅やら白やら
梅が咲きました
梅の香とは
どんなものかと
高くもない鼻を
差し出してみれば
黄色に染まった鼻を見て
笑う君
ほころぶ梅に
負けず劣らず
頬そめ笑み咲き誇る
....
なっちゃんだって
辛いこと、悲しいことあると思うよ
みんなが寝静まった頃
こっそり泣いてるのかもしれないな
それでも朝には
こんなに笑顔
自分も頑張ろうと思う
繋いだ手の感触を
消してしまえずに
たとえば、今
この空のあの雲
と 私の指が示しても
あの人にはもう
届かないでしょう
尾とひれのついた
魚の形の 群れが
泳いでい ....
かさかさ
こそこそ
内緒のはなしは
あのね、のね
葉っぱをめくって
こっそり隠す
かさかさ
こそこそ
落ち葉に
落ち葉に
あのね、のね
肩にかかる雨を解いて
湿った髪を指で梳いて
煙る匂いに瞼を伏せて
あの人がいた夜を
濡れた手の平に
描いている
窓ガラス
ふたつの顔を
映し見て
微笑む目と目
....
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